※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
グリーンマイル
(The Green Mile)
作品データ
著者:スティーヴン・キング
ジャンル:連載小説/魔術的リアリズム/ドラマ
死刑囚の看守が、不思議な囚人と出会って人生ごと揺さぶられる話
舞台は1932年のコールドマウンテン刑務所、死刑囚監房「グリーン・マイル」。ブロック監督官のポール・エッジコムは、巨大な黒人囚人ジョン・コフィーを受け入れる。彼は二人の白人少女を強姦し殺害した罪で死刑判決を受けた男なのに、怖いくらい穏やかで、暗闇を恐れて泣いてばかりいる。
ポールはやがて、ジョンが触れるだけで病を癒し、死にかけた命すら戻すような力を持つことに気づく。看守としての職務、囚人の罪、正義、そして人の痛み。全部がごちゃっと絡み合って、ポールの中の「割り切り」が壊れていく物語。
ざっくり時系列
1996年、老人ホームのポールが自分の体験を書き始める
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1932年、死刑囚監房「グリーン・マイル」でポールが監督官として働く
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ジョン・コフィーが収監され、ポールが違和感を覚える
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看守パーシーの残酷さが監房の空気を悪化させる
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デルの処刑でパーシーが手順をわざと外し、惨い死が起きる
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ジョンがポールの尿路感染症を治し、力の存在が明確になる
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ミスター・ジングルスが踏みつけられるが、ジョンが蘇生させる
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所長の妻メリンダの脳腫瘍を治すため、ジョンをこっそり連れ出す
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ジョンが腫瘍を引き出して治療し、その「病」をパーシーへ排出する
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パーシーが発狂してワイルド・ビルを射殺し、緊張病状態になる
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真犯人がワイルド・ビルだと分かり、ポールの疑念が確信に変わる
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それでもジョンは処刑を受け入れ、ポールにとって最後の処刑になる
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1996年、104歳のポールが孤独な長寿を抱えて物語を終える
物語の主要人物
・ポール・エッジコム
死刑囚監房の監督官。1996年に体験を記録する語り手
・ジョン・コフィー
不可解な治癒能力と共感能力を持つ死刑囚。暗闇を恐れる
・ブルータス “ブルータル” ハウエル
ポールの親友で副司令官。大柄だが穏やかな看守
・パーシー・ウェットモア
若くサディスティックな看守。州知事夫人の甥で、現場が扱いづらい
・ウィリアム “ワイルド・ビル” ウォートン
危険な連続殺人犯。監房で騒動を起こし続ける
・エドゥアルド “デル” ドラクロワ
ケイジャン人の死刑囚。ネズミのミスター・ジングルスと過ごす
・ミスター・ジングルス
デルが芸を仕込む賢いネズミ。ジョンの治癒で寿命が伸びる
リノリウムの廊下の先にある、毎日の終着点
「グリーン・マイル」は、床のリノリウムの色からそう呼ばれている。そこは、日常の仕事の先に必ず処刑がある場所で、看守たちは淡々と秩序を守ろうとしている。ポールは争いを避け、できるだけ平和に運用したい人間だけど、そこへジョン・コフィーが来たことで、空気が変わる。
見た目は怪物みたいに大きいのに、本人は内気で、悲しみや痛みに敏感すぎる。ポールは最初から「この人、本当にあの罪の人なのか?」って感覚を捨てきれないまま見守ることになる。
最悪の看守と、最悪の処刑が起こしてしまうもの
看守側の問題児がパーシー。囚人を敵に回すのが楽しくて、しかもコネが強いから誰も止めにくい。
やがて彼は「処刑の監督をさせろ」とねばり、デルの処刑でそれが現実になる。本来はスポンジを塩水に浸して電気椅子の死を速やかにするのに、パーシーはわざとそれを避ける。結果、デルは椅子の上で火をつけられたような形になり、長く苦しい死を迎える。
この出来事で、看守たちの中の「職務として処刑に向き合う」という建前が、一気に崩れていく。
触れるだけで治ってしまう囚人と、正義の置き場所
時間が経つにつれ、ジョンの力がはっきりしてくる。ポールの尿路感染症を治し、踏みつけられて瀕死のミスター・ジングルスすら生き返らせる。
そして決定打が、所長の妻メリンダの脳腫瘍。看守たちは危険を承知でジョンを外へ連れ出し、ジョンは腫瘍を手から体内に引き出す形で治す。でもそれはジョン自身に激しい痛みを残し、彼は「病」を抱え込むことになる。
戻ったあとジョンは、その「病」をパーシーへ吐き出すように移し、パーシーは発狂してワイルド・ビルを射殺し、二度と戻らない状態になる。力が奇跡としてだけじゃなく、恐ろしい形でも作用するのがきついところ。
真犯人が分かっても、止められない終点
ポールはずっとジョンの無実を疑っていたけど、真犯人がワイルド・ビルだと分かったことで、それが確信になる。ジョンは触れたことで真相を見てしまい、ポールに「この世の残酷さから逃れたい」「心配するな」と告げる。
助けたいのに、制度も立場も、何より時間も味方しない。結局ジョンの処刑は実行され、それがポールにとって最後の処刑になる。正しいことをしたい人ほど、心に傷が残る展開が続く。
この小説のポイント
・死刑囚監房という、毎日が極限の場所のリアルな空気
・癒す力がある囚人が、なぜ死刑台に立つのかという矛盾
・パーシーのような権力の歪みが、現場を壊していく怖さ
・奇跡が起きても、全部は救えないという重さ
・語りが1996年と1932年を行き来して、後悔と記憶が積み上がっていく
たぶんこんな小説
泣かせに来るだけの話じゃなくて、読んでる側の「正義って何?」をじわじわ揺さぶってくるやつ。優しさがある人ほど削られていくし、奇跡があるのに世界は冷たいまま、っていう余韻が残る。最後は、長生きが祝福じゃなくて罰みたいに見えてくる感じがして、静かに胸が重くなる一冊。

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