※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
オルタード・カーボン
著者:リチャード・モーガン
死ななくなった世界で、元兵士が殺人事件を追う話
人の心がデータ化され、肉体を乗り換えながら生き続けられる27世紀。元エリート兵士のタケシ・コヴァッチは、百七十年もの保管刑の途中で突然別人の身体に入れられ、地球で目を覚ます。彼を呼び出したのは何百年も生きる大富豪ローレンス・バンクロフト。自分が死んだ二日間の記憶がなく、それが自殺だとされている状況に納得できず、調査を依頼してきたのだ。死が意味を失った世界で、「それでも起きた殺人」の理由を追ううち、コヴァッチはこの社会の歪みそのものに踏み込んでいく。
ざっくり時系列
人類が心をデジタル化し、肉体を交換できる社会が成立
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タケシ・コヴァッチがエンヴォイとして活動する
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除隊後に犯罪に関わり、長期保管刑に処される
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途中で別の身体にダウンロードされ、地球で目覚める
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大富豪バンクロフトから調査依頼を受ける
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死の直前二日間の謎を追い始める
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調査の中で、社会構造と人間関係の闇が明らかになる
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事件の真相と、その背景が浮かび上がる
物語の主要人物
・タケシ・コヴァッチ
元エンヴォイ。高度な訓練を受けた兵士で、事件の調査役
・ローレンス・バンクロフト
何百年も生き続ける大富豪。自分の死の真相を知りたがっている
・レイリーン・カワハラ
コヴァッチの元上官。依頼の仲介役として関わる
死が軽くなった世界の、重たいスタート
この物語の土台にあるのは、「死が終わりじゃなくなった世界」だ。メモリー・スタックさえ残っていれば、人は何度でも戻ってこられる。金があれば、より良い肉体を選ぶこともできる。
そんな社会で起きた「死」は、昔とは意味が違う。だからこそ、バンクロフトの依頼は奇妙だ。死んだはずなのに生きている男が、「自分は殺された」と言っている。
コヴァッチは、見知らぬ身体と地球の街に違和感を抱えながら、調査を引き受ける。ここから物語は、ハードボイルドらしく、淡々と、しかし確実に深みに入っていく。
捜査の先で見えてくる社会の歪み
調査を進めるうちに、コヴァッチは一つの事件だけを追っているわけではなくなる。肉体を買える者と買えない者、何度も生き返る富裕層と、スタックを壊されれば終わる人間。その差は圧倒的だ。
犯罪者の精神だけが拘禁され、肉体が商品として扱われる現実も、彼の前に突きつけられる。誰が何を失い、誰が何を守っているのか。その構造が、バンクロフトの死の謎と絡み合っていく。
街の裏側、警察、宗教、企業。関係者が増えるほど、世界はより濁って見えてくる。
真相と、その後に残る感触
やがて明らかになるのは、バンクロフトの死に関する事実と、それを可能にしたこの社会の仕組みだ。事件は解決へ向かうが、すべてがスッキリするわけじゃない。
コヴァッチは真相に辿り着くことで、報酬や自由に近づくが、その過程で見たものは簡単に忘れられるものじゃない。死ななくなった世界でも、痛みや後悔は確かに残る。その感触を残したまま、物語は終わる。
この小説のポイント
・心と肉体を分離できる社会設定
・ハードボイルドな捜査劇とSFの融合
・不死がもたらす格差と倫理の問題
・一つの事件から世界全体が見えてくる構成
たぶんこんな小説
ネオンに濡れた未来都市を歩き回りながら、過去と暴力と記憶を掘り返していく感じ。派手な設定なのに、語り口は渋くて乾いている。読み終わると、未来の話なのに、今の世界のことを考えさせられる余韻が残る。

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