※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
バベル17
著者:サミュエル・R・ディレイニー
言葉そのものが武器になって、戦争の形が変わっていく話
同盟軍の支配圏で破壊活動が起きるたびに傍受される、発信源不明の通信〈バベル17〉。その解読を託されたのは、全銀河に名を知られる詩人リドラ・ウォンだった。彼女は〈バベル17〉が単なる暗号ではなく、一つの「言語」だと見抜く。言語が思考を形作り、行動を左右する世界で、その言葉を理解することは、敵の内側に入り込むことを意味していた。リドラは宇宙船ランボー号で戦場へ向かい、戦争と言語の奇妙な結びつきに踏み込んでいく。
ざっくり時系列
同盟軍の支配圏で破壊活動が続発する
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謎の通信〈バベル17〉が毎回傍受される
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詩人リドラ・ウォンが解読を任される
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〈バベル17〉が言語であると判明する
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リドラが宇宙船ランボー号で前線へ向かう
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敵と〈バベル17〉の関係が明らかになっていく
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言語が戦争に与える影響が浮かび上がる
物語の主要人物
・リドラ・ウォン
詩人。天才的な言語感覚を持ち、〈バベル17〉の解読者
・ランボー号のクルー
リドラと行動を共にする宇宙船の乗組員
謎の通信から始まる、言葉への違和感
物語の入り口は、戦争の只中に突然現れる奇妙な通信だ。敵の攻撃と必ずセットで現れる〈バベル17〉は、軍事的には暗号として扱われているが、リドラの感覚はそれを否定する。
彼女は詩人として、言葉が持つリズムや構造に敏感だ。その直感によって、〈バベル17〉は「隠すための言葉」ではなく、「使うための言葉」だと見抜かれる。この時点で、物語は単なる戦争SFから一段ズレた方向へ進み始める。
言語が思考を作り替える世界
リドラが前線へ向かうにつれ、〈バベル17〉が持つ性質がはっきりしてくる。それは情報を伝えるだけの道具ではなく、使う者の思考そのものを組み替えてしまう言語だった。
言葉が変われば、世界の切り取り方も変わる。善悪、敵味方、自分と他者。その境界が揺らぎ、戦争の構図そのものが違って見えてくる。リドラ自身もまた、その影響から完全に自由ではいられない。
戦争の裏側で明らかになる真実
物語の後半では、〈バベル17〉がなぜ使われ、何を目的としているのかが見えてくる。それは単純な兵器でも、策略でもない。
言語という、誰もが無意識に頼っているものが、ここでは最も強力な武器として機能している。その事実を理解したとき、リドラが取る行動は、軍事的な勝利とは別の意味を持ち始める。
この小説のポイント
・言語が思考と行動を支配するという発想
・戦争SFと詩的感覚の融合
・主人公が兵士ではなく詩人である構図
・コミュニケーションそのものを問い直すテーマ
たぶんこんな小説
宇宙戦争の話なのに、撃ち合いよりも「言葉って何だろう」と考えさせられる時間が長い。読み進めるほど、普段当たり前に使っている言語が少し不安定に感じてくる。派手さよりも、頭の中を静かに揺らしてくるタイプのSF。

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