※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
愛に時間を
(Time Enough for Love)
作品データ
著者:ロバート・A・ハインライン
ジャンル:SF
2000年以上生きた男が、自分の人生と愛を全部語り切ろうとする話
人類の寿命を延ばすための育種計画「ハワード家」の成果として生まれ、2000年以上生き続けてきた男、ラザルス・ロング。彼はもう生きる意味を失ったと感じていたが、最高責任者アイラに「物語を語るなら死ななくていい」と言われ、自分の人生をいくつもの時代と逸話に分けて語り始める。そこに出てくるのは、怠け者の天才軍人、解放された奴隷の兄妹、養女との結婚、複数の伴侶を持つ家族、そして時間を越えて実の母と出会う出来事。ラザルスは、愛・血縁・寿命・責任を、極端な状況で何度も問い直していく。
ざっくり時系列
2000年以上生きたラザルスが生きる意味を失う
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アイラ・ウェザラルの提案で回想を語り始める
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「失敗するには怠けすぎた男」の逸話(20世紀アメリカ海軍)
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奴隷の兄妹を解放し、「人間として生きる方法」を教える
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遺伝的問題がないと判断し、兄妹を結婚させ事業主にする
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辺境惑星で養女ドーラを救出し、成長後に結婚
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共同体を築くが、ドーラは老衰で死去
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新惑星でポリアモリーな家族を形成
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時間跳躍を試み、1916年に到達
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若き日の実母モーリーンと恋に落ちる
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第一次世界大戦で致命傷を負う
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未来の仲間に救出され、元の時代へ戻る
物語の主要人物
・ラザルス・ロング
2000年以上生きる人類最長寿の男。ハワード家の突然変異的存在
・アイラ・ウェザラル
ハワード家の最高責任者。ラザルスの回想を聞く聞き手
・ドーラ
辺境惑星でラザルスに救われ、後に彼の妻となる養女
・モーリーン
時間跳躍先で出会う、ラザルスの実母
生きる気力を失った男の、回想という延命装置
物語は「もう十分生きた」というラザルスの諦めから始まる。けれど、誰かが話を聞いてくれる限り生きる、という取引で回想が始まる構成が面白い。形式としては長編だけど、中身は短編や中編の連なりで、時代も場所も倫理も毎回ガラッと変わる。読者は、ラザルスの人生を追うというより、彼の価値観がどう作られてきたかを辿る感じになる。
愛と血縁を、全部バラして並べてみる
解放した奴隷の兄妹、養女との結婚、クローンを含む家族、そして実の母との恋。どれもかなり極端だけど、物語の中では「遺伝的リスクがないなら何が問題なのか」という理屈で一貫して検証される。ラザルスは説教しない代わりに、体験談を積み上げていく。その積み重ねが、読者に判断を投げ返してくる構造になっている。
時間を越えても、責任だけは逃げない
後半の時間跳躍では、ラザルスは若い母と出会い、戦争に巻き込まれ、死にかける。ここで初めて、彼は「不死に近い存在」であることを完全にはコントロールできない立場に置かれる。未来の仲間に救われることで物語は戻るけれど、万能感では終わらない。長く生きることは、選択の数が増えるだけで、責任は減らない、という感触が残る。
この小説のポイント
・一つの物語ではなく、人生そのものを素材にした構成
・愛、血縁、結婚、家族を極端な条件で並べて検証する
・不死や長寿が、幸福を保証しないことが繰り返し描かれる
・ハインライン作品群を横断する設定と人物が大量に登場する
たぶんこんな小説
読みやすい冒険譚を期待すると面食らうけど、「人生って何をどこまで選べるのか」を延々と考えさせられるタイプ。好き嫌いは分かれそうだけど、読み終わる頃にはラザルスという人間が頭から離れなくなる感じがする。時間がいくらあっても、愛と選択は足りなくなる、そんな雰囲気の一冊かも。

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