※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
異星の客
(Stranger in a Strange Land)
作品データ
著者:ロバート・A・ハインライン
ジャンル:SF/社会風刺/宗教・文化変容もの
火星育ちの青年が「水の兄弟」から始めて、地球の価値観を丸ごと揺らす話
火星で生まれ火星人に育てられたバレンタイン・マイケル・スミスが、20歳で地球へ帰還する。病院で看護師ジリアンが彼に水を分けたことで、火星の感覚では強烈に深い関係である「水の兄弟」になる。政府の拘束や利権の匂いをかいくぐりつつ、作家で弁護士で医師のジュバル・ハーショーの庇護のもとで、スミスは地球の宗教や文化を吸収していく。やがて彼は火星の影響を受けた「万物教会」を作り、社会を作り替える力を持つ集団へ育てるが、フォスター派の暴徒に殺される。それでも教会は残り、スミスは死後の世界でフォスターの代わりになる存在として現れる。
ざっくり時系列
有人宇宙船エンボイ号が火星へ向かい、着陸直前に連絡が途絶える
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25年後、宇宙船チャンピオン号が火星で唯一の生存者バレンタイン・マイケル・スミスを発見する
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火星人に育てられたスミスが地球へ帰還し、ベセスダ病院に収容される
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看護師ジリアンが警備をすり抜けて面会し、水を分け与えて「水の兄弟」になる
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記者ベン・キャクストンがスミスの莫大な富に気づき、政府に拘束される
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ジリアンがスミスを説得して病院を出し、ジュバル・ハーショーのもとへ連れて行く
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ハーショーが釈放を手配し、火星の所有権をめぐる法の前提が揺らぐ
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スミスが有名人となり、宗教や社会の仕組みを観察し始める
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フォスター派新啓示教会などを調べ、カーニバルで短期間マジシャンも経験する
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スミスが火星の影響を受けた「万物教会」を設立し、信者を増やす
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教会がフォスター派から敵視され、包囲と破壊を受けるが、信者たちは安全な場所へテレポートする
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スミスが逮捕されるが脱出し、財産が教会へ遺贈されたことが示される
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スミスがフォスター派の暴徒に殺害される
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ジュバルと一部の教会員が再結集し、新たな万物教会を準備する
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スミスが死後の世界に現れ、フォスターの代わりとなる存在として語られる
物語の主要人物
・バレンタイン・マイケル・スミス
火星で生まれ火星人に育てられた人間。20歳で地球に帰還し、文化のズレの中心になる
・ジリアン(ジル)・ボードマン
看護師。スミスに水を分け与え「水の兄弟」になり、地球社会への橋渡し役になる
・ベン・キャクストン
調査報道の記者。スミスの拘束や利権の問題を追い、のちに側近に加わる
・ジュバル・ハーショー
作家・弁護士・医師。隠遁気味の大物で、スミスの安全地帯と交渉の要になる
・フォスター
新啓示教会(フォステライト)の創始者。のちに大天使として存在しているとされる
・ディグビー
フォスターの後継者で教会の長。教会をめぐる衝突の中心にいる
火星帰りの「成人」が、まず病院で地球の入口につまずく
スミスは火星で育ったせいで、地球の常識が通じない。しかも帰還直後は病院に収容され、政府の管理下に置かれている。そこへジリアンが会いに行き、水を分ける。火星では水が極端に貴重だから、これはただの親切じゃなく、火星の基準だと「水の兄弟」という深い結びつきの成立になる。
この最初の小さな行為が、スミスにとって地球とつながる最初の回路になって、同時にジリアン側にも「この人を守らないとヤバい」というスイッチを入れる。
政府と富と法律のねじれを抜けて、ジュバル邸で地球を学び直す
ベンはスミスが莫大な富を持つことを知り、政府の動きが一気にきな臭くなる。ベンが拘束され、ジリアンはスミスを連れ出す決断をする。逃げ込む先がジュバル・ハーショーの家。
ジュバルは影響力のある人物で、スミスを守りつつ、釈放や権利の話を現実の場で動かしていく。火星の所有権をスミスに認めるはずだった地球の法律は、すでに知的生命体が住んでいる惑星には適用できない、という前提を突きつけられていく。ここで話が「珍しい帰還者」から、「地球社会の仕組みそのもの」に食い込んでいく。
宗教を見て、混ぜて、万物教会で地球の形を変えにかかる
スミスは有名人になり、地球のエリート層にもてはやされる一方で、宗教を次々に観察する。フォスター派新啓示教会は、性行為やギャンブルやアルコールが教会の管轄外なら容認され、奨励されることすらある巨大教会として出てくる。
スミスはカーニバルに混じって短期間マジシャンもやり、そこで人間社会の別の顔も吸い込む。そうやって集めた材料を、火星の感覚や能力の影響と一緒に混ぜて、「万物教会」を設立する。フォスター派カルトの要素と西洋の秘教主義を融合させたもの、として描かれている。
潰されても残る仕組み、殺されても続く運動
万物教会はフォスター派に「冒涜」として包囲され、教会堂は破壊される。けれど信者たちは安全な場所へテレポートして生き延び、表沙汰にならない形で動き続ける。スミスは逮捕されても戻り、財産が教会に遺贈されたことも示される。富と能力で、教会員たちは人類社会と文化を再編できる、という見取り図が立つ。
そしてスミスはフォスター派の暴徒に殺される。でも終わりじゃなくて、ジュバルたちは再結集して次の教会を準備する。さらにスミスは死後の世界に現れ、フォスターの代わりになる存在として語られていく。ここまで行くと、個人の生死より「変容が広がる構造」の話になってる。
この小説のポイント
・火星育ちの価値観が、地球の法律、宗教、権力の前提をズラしていく
・「水の兄弟」という小さな行為が、関係性と物語のエンジンになる
・政府の管理、莫大な富、火星の所有権など、現実の利害が物語を押す
・フォスター派新啓示教会のような巨大宗教の描写が、社会風刺として効いている
・万物教会が「迫害されても残る運動」になっていく流れ
たぶんこんな小説
異文化交流のほっこりじゃなくて、地球側の常識がズタズタに揺れる感じが強いタイプ。病院、政府、法律、宗教、カーニバルまで、地球のいろんな層を順番に見せながら、スミスがそれを吸収して別の形に組み替えていく。読後感は、ひとりの主人公の物語というより、「社会が変形していく過程を見た」って感覚が残りやすそうな雰囲気だよ。

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