※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
猫のゆりかご
著者:カート・ヴォネガット・ジュニア
世界の終わりを取材しに行ったら、変な宗教と最終兵器に全部巻き込まれる話
語り手ジョーナは「世界が終わった日」を書くための取材を進めるうちに、謎の物質〈アイス・ナイン〉と、嘘だらけなのに人を救う宗教ボコノン教、そして独裁国家サン・ロレンゾに絡め取られていく。科学は人類を救うのか、宗教は何のためにあるのか、という重たいテーマを、冗談みたいな出来事と軽妙な語りで押し流しながら、物語は本当に世界の終わりへと近づいていく。
ざっくり時系列
作家ジョーナが「世界が終末を迎えた日」の取材を始める
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原爆開発に関わった科学者フェリックス・ホーニカーに興味を持つ
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ホーニカーの子どもたちと接点を持つ
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水をすべて凍らせる物質〈アイス・ナイン〉の存在が明らかになる
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ジョーナがサン・ロレンゾ島へ渡る
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独裁政権とボコノン教の実態を知る
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世界の行方が、冗談の延長みたいな形で決定的な局面を迎える
物語の主要人物
・ジョーナ
物語の語り手。世界の終わりを記録するために動き回る作家
・フェリックス・ホーニカー
原爆開発に関わった天才科学者。人類史に大きな影を落とす存在
・モナ・アーモンソン
サン・ロレンゾ島一の美女。物語の中心に巻き込まれていく
・ボコノン
ボコノン教の教祖。嘘を前提に人々を救おうとする奇妙な宗教家
・“パパ”モンザーノ
サン・ロレンゾ島の独裁者。病と恐怖で国を支配している
世界の終末を探しに来たら、独裁国家に辿り着いた
ジョーナの取材は、いつの間にかカリブ海の小さな島サン・ロレンゾへ向かう。そこは貧しく、抑圧され、奇妙な宗教が根付いた国だった。表向きは禁止されているボコノン教は、実は国民の心の支えになっていて、真実と嘘の境目が最初からぐにゃぐにゃに曲がっている。ここでジョーナは、取材対象だったはずの「世界の終わり」に、自分自身が近づいていることに気づき始める。
氷が世界を止めるかもしれない、という冗談みたいな現実
物語の核にある〈アイス・ナイン〉は、水に触れたすべてを瞬時に凍らせる物質だ。科学的にはとんでもない代物なのに、扱われ方は妙に軽い。その軽さが逆に怖い。科学者たちは善悪を考えずに成果を残し、政治家や国家は都合よくそれを利用する。気づいたときには、誰も止め方を知らないまま、世界のスイッチに指がかかっている。
世界の終わりは、とても静かにやってくる
大事件が起こるというより、積み重なった偶然と無責任が、するっと臨界点を越える。ジョーナはその場に立ち会い、記録する立場でありながら、完全な当事者になっていく。笑えるくらいバカバカしいのに、なぜか背中が冷える。終末は雷鳴とともに来るものじゃなく、日常の延長線にあるのだと示される。
この小説のポイント
・科学と宗教をどちらも信用しきれない距離感
・重たいテーマを軽口とブラックユーモアで包む語り口
・嘘が人を救い、真実が世界を壊すかもしれないという逆転
・終末を「大事件」にしない冷静さ
たぶんこんな小説
深刻な話をしているはずなのに、読んでいる間ずっとクスッとさせられる。だけど読み終わると、世界の見え方が少しズレている。意味なんて最初からないのかもしれないし、それでも人は物語や宗教や科学にすがる。その全部を、肩の力が抜けた語りで眺めさせてくる、不思議な読後感の一冊。

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