※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
スローターハウス5
著者:カート・ヴォネガット・ジュニア
けいれんする時間をさまよい続ける男の一生の話
主人公ビリー・ピルグリムは、ある日突然「時間の中を勝手に移動する」ようになる。第二次世界大戦下のドレスデン、平凡な戦後のアメリカ、そして異星人トラルファマドールの動物園。彼の人生は順番を失い、発作のように断片的に繰り返される。その中で浮かび上がるのは、戦争の理不尽さ、人間の無力さ、そして歴史そのものの皮肉。SFの形を借りながら、人生と死を真横から眺め続ける物語。
ざっくり時系列
ビリーが平凡な青年として育つ
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第二次世界大戦に兵士として参加する
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ドイツ軍に捕虜として捕まる
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ドレスデンで空襲を地下の食肉処理場で生き延びる
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戦後、アメリカで結婚し平凡な生活を送る
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時間を勝手に移動するようになる
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トラルファマドール星人に拉致され動物園に展示される
↓
未来の自分の死の場面を知る
↓
過去・現在・未来を行き来し続ける人生を受け入れる
物語の主要人物
・ビリー・ピルグリム
戦争を経験し、時間を行き来するようになる主人公
・ローランド・ウィアリー
ビリーと共に戦場をさまよう兵士
・エドガー・ダービー
捕虜収容所で出会う年配の兵士
・トラルファマドール星人
時間を同時に見る価値観を持つ異星人
地下の食肉処理場から始まる生存の記録
物語の大きな起点は、ドレスデン空襲だ。ビリーは捕虜として街に連れて来られ、地下にある「スローターハウス5」と呼ばれる食肉処理場に閉じ込められる。そこで彼は、街が壊滅するほどの爆撃を生き延びる。地上に出た時、街は焼け野原になっていて、戦争がもたらした現実だけが静かに残っている。この体験が、ビリーの時間感覚を根本から壊していく。
時間がバラバラに崩れていく人生
戦後のビリーは、郊外で家庭を持ち、仕事をし、表面上は普通の人生を送る。しかし彼の意識は突然別の時間へ飛ぶ。若い頃の戦場、未来の自分、異星人に観察される日々。出来事は順番を守らず、因果も薄れていく。時間を直線で生きる感覚は消え、すべてが同時に存在しているように描かれる。
すでに決まっている死を知った男
ビリーは、自分がいつどのように死ぬのかを知っている。その事実は恐怖としてではなく、避けられない一場面として描かれる。トラルファマドール星人の価値観では、死は一瞬の出来事にすぎず、他の時間では人は生き続けている。ビリーもまた、その考え方を受け入れ、自分の人生を抵抗せず眺めるようになる。
この小説のポイント
・戦争体験を正面から英雄化しない
・時間構造を壊すことで人生そのものを描いている
・SF設定が思想や視点の装置として機能している
・出来事の意味より「起きてしまった事実」に焦点がある
たぶんこんな小説
重たい出来事が多いのに、語り口はどこか乾いていて淡々としている。人生を一直線で理解しようとする感覚が、少し横にずらされる感じ。悲惨さも滑稽さも同じ距離から見下ろしているような、不思議な読後感が残る一冊。静かに、何度も同じ瞬間を見せられる物語。

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