※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
タイムクエイク
著者:カート・ヴォネガット
世界が10年巻き戻って、人類全員がリプレイを強制される話
2001年、突如起きたタイムクエイクによって世界は1991年へ逆戻りする。そこから約10年分、人類は自由意思を奪われ、過去とまったく同じ行動をなぞり続けることになる。やり直しでも救済でもなく、ただの強制再生。その時間が終わったあと、人は本当に「自由」になれるのか。作者自身とキルゴア・トラウトを巻き込みながら、物語は奇妙で切実な方向へ転がっていく。
ざっくり時系列
2001年に時空の異常「タイムクエイク」が発生する
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世界全体が1991年2月17日に巻き戻る
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人類は約10年間、自由意思なしで過去を再演する
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タイムクエイクが終了し、時間が再び動き出す
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自由を取り戻した世界が混乱に陥る
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人々は「自由に生きる」ことの難しさに直面する
物語の主要人物
・カート・ヴォネガット
作者本人として登場し、物語を語り、世界を観察する存在
・キルゴア・トラウト
ヴォネガット作品おなじみのSF作家。自由と人間性の象徴的存在
・タイムクエイク後の人々
自由意思を失い、再び得ることになる人類全体
時間が壊れて、全員が操り人形になる
タイムクエイク中、人は自分の意思で何かを選ぶことができない。過去にした行動、言った言葉、起こした失敗まで、すべてが自動的に再生される。反省も後悔も意味を持たず、ただ眺めるしかない。人生が映画の再上映みたいになり、登場人物だけが自覚を持って閉じ込められている感覚が続く。
自由が戻った瞬間、世界はもっと壊れる
10年分のリプレイが終わり、人々は突然「自分で決めていい」状態に放り出される。すると世界は一気に混乱する。犯罪、暴走、空虚。自由は祝福どころか、扱い方のわからない重たい荷物として現れる。誰もが「次に何をすればいいのか」を知らない。
生きろ、って言われても困るんだ
物語の終盤で強調されるのは、自由意思そのものよりも、それをどう使うかという問題だ。キルゴア・トラウトは、人々に「生きろ」と呼びかける。でもそれは励ましというより、突き放した合言葉に近い。指示も正解もなく、ただ生きるしかない世界が残される。
この小説のポイント
・時間が戻るSF設定を、人間の自由の話に直結させている
・作者自身が物語に介入するメタ構造
・救いと絶望が同時に語られる独特の距離感
・ヴォネガット作品の総決算的なモチーフの多さ
たぶんこんな小説
奇抜なSF設定なのに、読後に残るのは人生の素朴な重さ。やり直せたら幸せ、という発想をあっさり裏切って、自由って案外しんどいよね、と静かに言ってくる。笑いながら読めるのに、最後は少し立ち止まってしまう、不思議な余韻のある一冊。

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