※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
パアテル・セルギウス
(Отец Сергий)
著者:レフ・トルストイ
天才貴族が、プライドを捨てきれないまま聖人になっていく話
将来有望な貴族ステパン・カサツキーが、結婚直前に婚約者の過去を知って心が折れ、修道士になる。
世間から離れて“聖なる人”として崇められていくのに、本人の中はずっと落ち着かない。
信仰で救われたというより、プライドと欲と自己嫌悪に振り回されながら、最後にようやく違う場所へ着地していく物語。
ざっくり時系列
才能ある貴族として将来を期待される
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結婚前夜に婚約者の過去を知り、プライドが砕ける
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修道士になり、神父セルギイとして生き始める
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屈辱と疑念の末、隠遁生活に入る
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夜に訪ねてきた女性に誘惑され、指を切り落として拒む
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聖性が高まったと見なされ、治癒師として巡礼者が集まる
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しかし内面は倦怠感・自尊心・情欲に苛まれ続ける
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若い娘との出来事で決定的に崩れる
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修道院を出て、かつて自分が苦しめたパシェンカを探す
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彼女の生き方を見て、自分の進む方向が見える
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放浪の末に逮捕され、シベリアへ送られる
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農民に雇われ、子どもを教えたり庭仕事をして暮らす
物語の主要人物
・ステパン・カサツキー(神父セルギイ)
元は将来有望な貴族。修道士となり名声を得るが内面は揺れ続ける
・マリー・コロトコワ
カサツキーの婚約者。彼が人生を変えるきっかけになる
・マコフキナ
隠遁中のセルギイを誘惑しに来る女性
・パシェンカ(プラスコーヴィヤ・ミハイロヴナ)
かつて彼が苦しめた相手。後半で彼の転換点になる
完璧な人生が崩れて、修道士へ逃げ込む
カサツキーは、才能も地位もあって、未来は約束されたような青年だった。
でも結婚の直前、婚約者が皇帝ニコライ1世と関係していたと知り、誇りがズタズタになる。
彼はその痛みを抱えたまま世俗を捨て、修道士になって“セルギイ神父”として生きる道を選ぶ。
ここでの出家は、信仰の勝利というより、傷ついたプライドの避難場所っぽい温度がある。
誘惑に勝っても、心は勝てない
隠遁生活の中、ある夜に陽気な一団が訪ねてきて、マコフキナが彼を誘惑しようとする。
セルギイは指を切り落としてそれを拒む。
外から見れば凄まじい勝利で、聖人っぽさがさらに強まる。
でも本人は「まだ自分は危うい」と思い知らされる感じで、安心より焦りが残る。
崇められるほど、内側が苦しくなる
セルギイは治癒師として知られ、巡礼者が集まる存在になる。
ところが、本人の中には倦怠感、自尊心、情欲が残ったままで、真の信仰に到達できていない自覚がある。
その状態で、若い娘との出来事が起こり、彼は決定的に崩れる。
“聖人の仮面”が落ちたとき、彼はその場に留まれなくなって修道院を去る。
いちばん痛い場所で、やっと道が見える
彼が探し出すのは、昔自分が苦しめたパシェンカ。
彼女は世間的には成功者じゃない。でも家族に仕えながら淡々と生きていて、その姿がセルギイに刺さる。
ここで彼の進むべき方向が変わる。
名声とか立派さじゃなく、もっと地味で、もっと低い場所の生き方へ。
この小説のポイント
・“聖人っぽさ”と“人間臭さ”がずっと同居している
・勝利の演出(指を切る)ですら、内面の解決になっていない
・崇められるほど自己愛が刺激されて、苦しみが増える構図
・最後に「人に仕える」方向へ落ち着く流れ
たぶんこんな小説
読んでると、かっこいい話というより、痛いところをずっと突かれる感じ。
立派になろうとするほど、プライドが顔を出して邪魔してくる。
でも最後は、派手な救いじゃなくて、地味な生活にふっと着地する余韻が残る物語。

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