※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
コサック
(Казаки / The Cossacks)
著者:レフ・トルストイ
世俗に疲れた青年が、コーカサスで「正しい生き方」を探しに行く話
貴族社会のぬるさに嫌気がさした青年オレニンが、軍人としてコーカサスに渡り、コサックの村で暮らす中で「完全な生き方」を夢見る物語。自然に近い生活、率直な人々、素朴な価値観に触れながら、自分もそこに溶け込めると信じて進んでいくけれど、最後に突きつけられるのは、自分が結局よそ者であるという現実だった。
ざっくり時系列
オレニンがモスクワの生活に幻滅する
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士官候補生としてコーカサスへ向かう
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コサックの村スタニーツァで暮らし始める
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老人エロシカと親しくなり、狩りや酒に付き合う
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コサックの若者ルカと、その婚約者マリアンカに出会う
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オレニンがマリアンカに恋をする
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幸福とは与えることだと考え、自己犠牲を選ぼうとする
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ルカが戦いで重傷を負う
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オレニンがマリアンカに拒絶される
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オレニンが村を去る
物語の主要人物
・ドミトリー・アンドレイチ・オレニン
ロシア貴族の青年。空虚な生活から逃れ、理想を求めてコーカサスへ向かう
・マリアンカ
若いコサックの女性。ルカの婚約者で、オレニンの憧れの対象
・ルカ(ルカシュカ)
勇敢な若いコサック。マリアンカの婚約者で、村の誇りとされる存在
・エロシカ
年老いたコサック。狩りと酒を愛し、オレニンを温かく受け入れる
・ベレツキー
ロシア人将校。モスクワ的価値観を持ち込み、オレニンの理想を揺さぶる
モスクワを捨てた青年が、荒々しい自然に身を置くまで
1852年、理想主義的な青年オレニンは、上流社会の虚しさに耐えきれず、軍に身を投じてコーカサスへ向かう。スタニーツァと呼ばれるコサックの村での生活は、彼にとって新鮮で、自然と人間がむき出しで共存しているように見えた。
彼は老人エロシカと親しくなり、狩りに出かけ、酒を飲み、コサックの習慣を真似るようになる。オレニンは、ここでなら自分は生まれ変われる、と本気で信じ始める。
素朴な生活への憧れと、恋がもたらすズレ
村で暮らすうち、オレニンは若い女性マリアンカに心を奪われる。彼女はコサックの若者ルカの婚約者で、オレニンはその事実に苦しみながらも、自分は彼女を欲しているのではなく、彼女たちの純朴さを愛しているのだ、と自分に言い聞かせる。
幸福とは他人に与えることだ、という結論に達した彼は、ルカに馬を贈り、自分の感情を押し殺そうとする。しかしその理想は、村の人々やルカ自身にはうまく伝わらない。
戦いと拒絶が、決定的な現実を突きつける
やがて、コサックとチェチェン人との戦いが起こり、ルカは重傷を負う。混乱の中、オレニンはマリアンカに想いを告げようとするが、彼女は激しく拒絶する。その瞬間、オレニンは、自分がこの世界の内部に入れたつもりで、実は最初から外側にいたことを悟る。
彼は軍に戻る決断をし、村を去る。見送りに来たのはエロシカだけだったが、振り返ったとき、彼はすでに日常に戻っていた。オレニンの存在は、村にとって特別なものではなかったのだ。
この小説のポイント
トルストイ自身の若い頃の体験が色濃く反映されている
文明社会への嫌悪と、自然への憧れが正面から描かれる
理想主義と現実のズレが、恋と戦いを通して浮かび上がる
コサック社会は理想郷としてではなく、独立した現実として存在している
主人公の成長よりも、挫折の感覚が強く残る構成
たぶんこんな小説
人生をやり直したくなって、環境を丸ごと変えたら何か掴めるんじゃないか、って一度は考えたことがある人に刺さるやつ。自然も人も魅力的なんだけど、そこに飛び込んだ自分が変われるかどうかは別問題、ってことを静かに突きつけてくる。読み終わると、爽快というより、少し苦くて澄んだ空気が残る感じ。

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