※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
スプーク・カントリー
著者:ウィリアム・ギブスン
現実と仮想の境目で全員つながっていく話
元ロックバンドのヴォーカルで、今はフリーのジャーナリストとして活動するホリス・ヘンリーは、ある新雑誌の取材依頼をきっかけに、奇妙なアートと技術の世界に足を踏み入れる。一方その頃、ニューヨークでは謎の老人にiPodを渡し続ける青年チトーが追われる身になり、別の場所では翻訳者のミルグリムが正体不明の男に拘束されている。三人の行動はまるで無関係に見えるが、現実に重ね合わされる仮想世界と、裏で動く力によって、少しずつ一本の線に束ねられていく。
ざっくり時系列
ホリスが新雑誌の依頼で臨場感アートの取材を始める
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特殊バイザーによる仮想モニュメントの存在を知る
↓
天才ハッカーのボビー・チョンボーと出会う
↓
チトーが老人にiPodを渡す仕事を続ける
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チトーが追われる立場になる
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ミルグリムがブラウンに拘束され翻訳をさせられる
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三人の動きが同じ事件へと収束していく
物語の主要人物
・ホリス・ヘンリー
元ロックバンドのヴォーカルで現在はフリーのジャーナリスト
・チトー
ニューヨークに住む中国系キューバ移民の青年
・ミルグリム
薬物依存を抱える翻訳者
・ボビー・チョンボー
臨場感アートに関わる天才ハッカー
・ブラウン
ミルグリムを拘束し翻訳を強要する謎の男
取材から始まる奇妙な入口
物語はホリスの取材活動から動き出す。仮想現実用のバイザーを通して、現実の風景に別の光景を重ねるアート。それは記念碑であり、追悼であり、現実そのものを書き換える試みでもあった。取材対象のはずだったこのアートは、いつの間にかホリス自身を、理解できない出来事の中心へと引きずり込んでいく。
逃げる者と縛られる者
一方でチトーは、意味も分からないまま続けていた仕事のせいで、正体不明の男たちに追われる立場になる。ミルグリムは、翻訳という能力を理由に自由を奪われ、見えない組織犯罪の輪郭に触れさせられる。三人とも、自分の意思で選んだつもりの行動が、実は誰かの計算の上に置かれていたことに気づき始める。
重なった先で見えてくるもの
物語が進むにつれ、仮想アート、諜報活動、組織犯罪が同じ線上に並び始める。現実と仮想、表と裏、個人と国家。その境目は思っていたよりずっと薄く、簡単に重ね合わされる。三人が辿り着くのは、派手な決着というより、世界がどう動いているのかを垣間見る瞬間だ。
この小説のポイント
テクノロジーそのものよりも、それをどう使い、どう信じ、どう利用されるかに焦点が当たっているところが特徴。派手な未来描写は控えめで、少し先の現実が静かにズレていく感覚が積み重なっていく。情報、記憶、監視が当たり前に混ざり合う世界が、淡々と描かれていく。
たぶんこんな小説
ニュース記事や路地裏の噂を拾い集めていくうちに、いつの間にか大きな構図が浮かび上がってくる感じの小説。読んでいる最中は断片的なのに、最後には「ああ、そういう話だったのか」と静かに腑に落ちる、不思議な手触りが残る。

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