※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
モナリザ・オーヴァドライヴ
著者:ウィリアム・ギブスン
ヤクザの娘と女サムライが、亡霊みたいなAIの影に導かれて未来へ転がり込む話
抗争から逃げてロンドンに渡ったヤクザの娘・谷中久美子と、銀色のミラーグラスをかけた女ボディガード・サリイ。奇妙な同居関係から始まったふたりの逃避行は、すでに死んだはずの巨大企業一族T=Aと「3ジェイン」という謎の存在に引き寄せられていく。未来を見失った少女と、過去を捨てきれない女が、都市と電脳空間のあいだで翻弄されながら、世界の裏側に転がる“答え”に触れてしまう物語。
ざっくり時系列
抗争を避けるため、谷中久美子がロンドンへ逃げる
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久美子のボディガードとしてサリイが同行する
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ロンドンで奇妙な事件と人物たちに巻き込まれていく
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T=A(テスィエ・アシュプール)と3ジェインの影が見え始める
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現実世界とサイバースペースが強く結びついていく
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久美子とサリイが、それぞれの過去と未来に向き合う
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三部作全体を貫いてきた構造がひとつの形を取る
物語の主要人物
・谷中久美子
抗争から逃げるためロンドンに来た、大物ヤクザの娘
・サリイ・シアーズ
久美子のボディガード。銀色のミラーグラスをかけた女サムライ
・3ジェイン
T=Aにまつわる謎の存在。すでに死んだはずなのに影響力を持つ
・テスィエ・アシュプール(T=A)
巨大企業一族。物語全体の背後で亡霊のように関与する
外人ロンドンより奇妙な逃避行は、すでに誰かの掌の上だった
久美子にとってロンドンは、抗争から逃げるための場所だったはずだった。だが街そのものが異様で、出会う人物も状況も、どこか現実感が薄い。サリイは護衛として付き添いながらも、久美子とは別の理由でこの街に縛られている。ふたりが関わる出来事の裏には、偶然では片づけられないつながりがあり、T=Aと3ジェインの存在が、静かに輪郭を持ち始める。
都市とサイバースペースが重なり、個人の選択が世界に食い込む
物語が進むにつれ、現実世界と電脳空間〈サイバースペース〉の境界はどんどん曖昧になる。誰が操っていて、誰が操られているのかも分からない。久美子は未来を、サリイは過去を、それぞれ引きずったまま動いているが、ふたりの行動は知らないうちに巨大な構造の一部になっていく。ここで描かれるのは派手な戦いというより、静かに進行する支配と選択の連鎖。
孤独な魂が、三部作の終点でそれぞれの立ち位置に辿り着く
最終的に久美子とサリイは、逃げ続けるだけではいられなくなる。3ジェインとT=Aの存在が示す「未来」は、人類とAI、個人とシステムの関係そのものを問い直すものだった。すべてが説明されるわけではないが、三部作を通して積み重ねられてきた要素が、この地点で一度、静かに収束する。
この小説のポイント
・未来世界と都市描写が、現実と地続きに感じられる
・AIや企業の存在が、人格を持つ「影」のように描かれる
・少女と女戦士という対照的な二人の関係性
・〈スプロール〉三部作全体を締めくくる構造
たぶんこんな小説
ネオンとノイズに満ちた未来都市を歩きながら、世界の仕組みを横目で見せられる感じ。派手に答えを突きつけるというより、「気づいたらここまで来てた」みたいな読後感が残る。現実と電脳が溶け合った空気の中で、人とAIの距離感をぼんやり考えさせられる一冊。

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