※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
流れよ我が涙、と警官は言った
(Flow My Tears, the Policeman Said)
著者:フィリップ・K・ディック
ある朝、有名人だったはずの男が「存在しない人間」になる話
警察国家と化した未来のアメリカで、遺伝子操作されたテレビスターのジェイソン・タヴァナーは、目覚めた瞬間から自分が誰にも知られていない世界に放り出される。身分証も記録も消え、警察に捕まれば即アウト。逃げ回るうちに、彼はこの世界の異常さと、自分が巻き込まれた出来事の正体に近づいていく。
ざっくり時系列
警察国家のアメリカでタヴァナーが人気テレビ番組に出演する
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元恋人のもとで寄生生物を浴びる
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翌朝、身分証も社会的記録も消えた状態で目覚める
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周囲の誰もタヴァナーを知らないことに気づく
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偽造身分証を求めてキャシーと接触する
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警察に追跡され、マクナルティ警部に連行される
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誤認により一時的な通行証を得て釈放される
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再び拘束され、警察長官バックマンの尋問を受ける
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バックマンの妹アリスに助けられ、薬を飲まされる
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アリスの死をきっかけに指名手配される
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現実改変薬KR-3の実験だったと判明する
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タヴァナーの存在は元の世界へ戻る
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それぞれの登場人物が別々の結末を迎える
物語の主要人物
・ジェイソン・タヴァナー
遺伝子操作された歌手でテレビスターだった男
・ヘザー・ハート
タヴァナーの恋人で同じく有名歌手
・キャシー・ネルソン
政府文書の偽造に関わる女性
・マクナルティ警部
タヴァナーを取り調べる警察官
・フェリックス・バックマン
警察国家の頂点に立つ警察長官
・アリス・バックマン
フェリックスの妹で、物語の鍵を握る存在
・メアリー・アン・ドミニク
逃亡中のタヴァナーを助ける陶芸家
警察国家と、有名人の転落
舞台は第二次南北戦争後のアメリカ。警察が社会を完全に管理し、身分証を持たない人間は即座に排除される世界だ。そんな中で、何千万人にも知られていたはずのタヴァナーは、突然「誰でもない存在」になる。電話をかけても、恋人も友人も彼を知らない。
逃げるほど深まる混乱
偽造身分証を頼りに検問を越え、警察に捕まり、また釈放される。警察のミスや偶然で助かっているように見えても、常に追跡装置が付きまとう。バックマン長官は、タヴァナーが巨大な陰謀の一部ではないかと疑い続けるが、本人は何も分かっていない。
現実がずれる理由と、元に戻る世界
バックマンの妹アリスの死をきっかけに、事態は一気に明るみに出る。原因はKR-3という現実改変薬の実験だった。タヴァナーは一時的に「彼が存在しない並行世界」へ飛ばされていただけで、アリスの死によって元の現実に戻ったことが判明する。
エピローグで語られる、その後
事件後、タヴァナーは名誉を回復し、静かに老衰で生涯を終える。バックマンは警察国家を暴露しようとして命を落とし、ヘザーは芸能界を去る。革命を夢見た学生たちも力尽き、警察国家そのものもやがて縮小していく。
この小説のポイント
「自分が自分である証拠」が制度や記録に依存している世界を、極端な形で描いている。有名人ですら一瞬で消える社会の不安定さと、警察権力の異常さが重なっていく。
たぶんこんな小説
悪夢みたいに状況がずれ続ける感覚が最後まで続く。SFだけど、派手な未来技術よりも、人が制度に潰される感じが強く残るタイプの物語。読後、現実の「身分」とか「証明」がちょっと怖くなるやつ。

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