※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
わたしたちが孤児だったころ
(When We Were Orphans)
作品データ
著者:カズオ・イシグロ
ジャンル:小説(推理小説風/心理小説)
名探偵になっても、子どもの頃は取り戻せない話
名探偵として名声を得た男クリストファー・バンクスは、幼いころに失踪した両親の謎を解くため上海へ戻る。
彼はこの事件さえ解決できれば、自分の人生も、世界の歪みも正せると信じている。
けれど調査が進むほど、記憶は揺らぎ、現実と想像の境目は曖昧になっていく。
これは事件解決の物語というより、失われた幼年期を追い続ける心の旅だ。
ざっくり時系列
上海租界で両親と暮らす
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父が失踪し、まもなく母も姿を消す
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叔母のもとへ送られ、イギリスで育つ
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私立探偵として成功する
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孤児の少女ジェニファーを養子に迎える
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1937年、両親失踪の真相を求め上海へ戻る
↓
戦火の上海で危険な捜索を続ける
↓
叔父フィリップが黒幕だと知る
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両親の真実を知る
↓
老いた母と再会する
物語の主要人物
・クリストファー・バンクス
英国人の私立探偵。幼少期に両親を失った
・アキラ
上海時代の日本人の幼なじみ
・フィリップ
父の同僚で、叔父のような存在
・サラ・ヘミングス
ロンドン社交界で知り合う女性
上海で失われた家族
クリストファーは1900年代初頭の上海で育つ。
父はアヘン貿易に関わり、母はそれを激しく批判していた。
ある日父が消え、続いて母も姿を消す。
少年の世界は、理由も説明もないまま崩れてしまう。
名探偵としての成功と空白
イギリスに渡ったクリストファーは、学業を修め、私立探偵として名を上げる。
社交界に迎えられ、事件を次々と解決するが、両親の失踪だけは手つかずのままだった。
彼自身も、その事件が人生の中心に居座り続けていることを自覚している。
戦火の上海と、壊れていく確信
1937年、クリストファーは上海へ戻る。
彼は両親が今もどこかに囚われていると信じ、危険な捜索を続ける。
やがて、記憶は歪み、現実の戦争と子どもの頃の幻想が混ざり合っていく。
彼はこの事件を解決すれば、世界的な悲劇すら防げると本気で考えるようになる。
この小説のポイント
・探偵小説の形式を借りた記憶の物語
・語り手自身が信頼できない構造
・個人史と世界史が静かに重なっていく
・喪失と自己正当化の心理描写
たぶんこんな小説
謎は解けるけれど、全部が救われるわけじゃない。
子どもの頃に信じた物語を、大人になっても手放せない人の話。
静かで、ずっと胸の奥に残る感触の小説。

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