※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
楽園のこちら側
(This Side of Paradise)
作品データ
著者:F・スコット・フィッツジェラルド
ジャンル:青春小説/ジャズ・エイジ前夜の若者群像
才能あるつもりの青年が、恋と野心で自分をすり減らしていく話
主人公はエイモリー・ブレイン。プリンストン大学に通うハンサムな中流階級の学生で、文学に手を出しつつ、若い女性と次々に恋愛するんだけど、どれも満たされない。戦争、仕事、金、階級、恋。そういうものに振り回されながら、最後は「自分は何者なのか」だけが手元に残っていく。
ざっくり時系列
中西部の青年エイモリーが「偉大な運命」を信じて育つ
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予備校でフットボールのクォーターバックになる
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母ベアトリスとは距離があり、ダーシー神父の庇護を受ける
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プリンストン大学へ進学
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ミネアポリスでイザベル・ボルジェと恋に落ちる
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手紙を大量に送るが、批判に幻滅されロングアイランドで別れる
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ニューヨークでショーガールの部屋へ行くが、良心と幻影で立ち去る
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第一次世界大戦中に陸軍へ、海外で任務に就く
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海外滞在中に母が亡くなり、投資失敗で家の財産が大きく減る
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休戦後、ニューヨークへ。ロザリンド・コナージに夢中になる
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広告代理店に就職するが仕事が合わない
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ロザリンドが裕福で地位のあるドーソン・ライダーを選び破局
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仕事をやめ酒浸りになる
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メリーランドでエレノア・サベージと出会い、夏を過ごす
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別れの夜、エレノアが崖から馬で飛び降り自殺を図るが直前で安全な場所へ
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ニューヨークに戻るとロザリンドの婚約を知り、さらにダーシー神父の死
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ホームレス状態でプリンストンへ放浪し、社会問題や社会主義を語る
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最後に自分の利己主義と耽溺を自覚し、「私は自分自身を知っている…だが、それだけだ」に行き着く
物語の主要人物
・エイモリー・ブレイン
主人公。プリンストンの学生として恋や野心を追い、戦争と戦後を経験する。
・ベアトリス・ブレイン
エイモリーの母。風変わりな母親として描かれ、後に亡くなる。
・セイヤー・ダーシー神父
カトリックの司祭。エイモリーの精神的な師となる。
・イザベル・ボルジェ
裕福な社交界デビューの女性。エイモリーの初恋として登場する。
・ロザリンド・コナージ
自己陶酔的なフラッパー。エイモリーが強く惹かれる相手。
・ドーソン・ライダー
ロザリンドに選ばれる、裕福で地位のある求婚者。
・エレノア・サベージ
美しく無謀な無神論者。メリーランドでエイモリーと出会う。
まずはプリンストン、恋は盛り上がるのに噛み合わない
エイモリーは「自分には何か大きい運命がある」と思ってる。でもその中身は本人もよく分かってない。プリンストンにいて、クラブだの文学だの、ちょっと背伸びした世界に足を突っ込む。そこでミネアポリスで出会ったイザベルと恋に落ちるんだけど、手紙を大量に送るうちに、彼の言葉が相手を冷めさせてしまって、ロングアイランドで別れる。恋をしてるのに、相手と同じ場所に立ててない感じが早めに出てくる。
戦争と金と仕事が、恋の現実味を一気に上げてくる
その後、エイモリーは陸軍に入り、海外で任務に就く。そこで母の死と、家の財産が消えていく知らせも来る。休戦後のニューヨークで彼はロザリンドに夢中になるけど、広告代理店の仕事が嫌で、生活の見通しも弱い。結局ロザリンドは、裕福で地位のあるドーソン・ライダーを選ぶ。ここでエイモリーは、恋が気持ちだけじゃ成立しない現実に正面から殴られる。
夏の逃避行のあと、全部ひとりで背負って歩き出す
メリーランドで出会うエレノアとの時間は、息継ぎみたいにゆったりしてる。でも別れの夜、彼女は崖から馬で飛び降りて自殺を図り、直前で自分だけ安全な場所へ飛び降りる。エイモリーは「自分は愛されていない」と悟る。ニューヨークに戻ればロザリンドは婚約済みで、ダーシー神父も亡くなる。居場所を失ったエイモリーは放浪し、車中で社会問題や社会主義を語りながらも「まだ考えをまとめている最中」と認める。最後はプリンストンの塔を見上げて、自分の欠点と向き合い、「私は自分自身を知っている…だが、それだけだ」と言うところに落ち着く。
この小説のポイント
・プリンストンの学生生活から戦争と戦後のニューヨークまで、若者の気分の移り変わりがそのまま流れていく
・恋が続かない理由が、性格だけじゃなく金や階級や将来性と絡んでくる
・エイモリーが「何者になるか」より先に「自分が何者か」にぶつかっていく構造になってる
・理屈っぽいようで、けっこう感情で転ぶ瞬間が多いのも特徴
たぶんこんな小説
恋に酔ったり、現実に冷まされたり、やけになったり、急に真面目になったり、そういう揺れがずっと続く感じがある。読み終わる頃には、主人公の人生が成功したかどうかより、「あの時代の空気の中で、若者が何を信じて何を失っていったか」みたいな感触が手元に残りやすい。

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