※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
迷宮の将軍
(El general en su laberinto)
作品データ
著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
ジャンル:独裁小説/歴史とフィクションの混合
英雄がほどけていく最終章の旅
大コロンビアの解放者、シモン・ボリバルの最後の7か月を追う物語。舞台は1830年、サンタフェ・デ・ボゴタからサンタ・マルタへ向かう「最後の旅」だよ。
彼は大統領を辞任し、人々の熱も信頼も離れていくなかで、ヨーロッパ亡命を目指して出発する。体は原因不明の病に蝕まれ、威信は落ち、周囲の政治も荒れていく。旅の途中で起こる出来事と、記憶の回想が絡み合って、彼の人生そのものが迷宮みたいに見えてくる。
ざっくり時系列
ボゴタで出国準備、しかしパスポートがない
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ホセ・パラシオスら少数の忠実な随行員と出発
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ファカタティバに滞在、衰弱ぶりが目立ち始める
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ホンダ到着、祭りの準備と再会、そしてマグダレーナ川を下り始める
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プエルト・レアルで「夜の歌う女性」を見たと主張、捜索しても痕跡なし
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モンポクスで警察に呼び止められ、身元確認と祝宴(体力はついてこない)
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トゥルバコへ、船が見つからずパスポートも遅れ、政治の知らせが刺さる
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ようやくパスポート到着、カルタヘナ・デ・インディアス方面へ
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スクレ元帥暗殺の報で心を痛める
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ソレダードに長く滞在、初めて医師の診察を受け入れる
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サンタ・マルタで旅が止まり、側近と医師に見守られながら息を引き取る
物語の主要人物
- 将軍(シモン・ボリバル)
解放者と呼ばれる主人公。亡命を目指すが、病と政治の崩れに追い詰められていく - ホセ・パラシオス
長年仕える腹心。将軍の生活と記憶を支え、旅の同行者でもある - ダニエル・フロレンシオ・オレアリー将軍
旅の途中で合流する副官。政治的陰謀や情勢の知らせをもたらす - マヌエラ・サエンス
将軍の長年の愛人。旅の間、手紙を通じて将軍の心に強く居続ける - フランシスコ・デ・パウラ・サンタンデール将軍
かつての友で、将軍の記憶や夢に繰り返し現れる存在 - アントニオ・ホセ・デ・スクレ元帥
将軍の親友で、後継者候補とも目される。彼の訃報が将軍を揺らす
ボゴタ出発、拍手じゃなく落書きの中で始まる
始まりは1830年5月8日。将軍は出国の準備を進めるけど、街の空気は冷たい。落書き、罵声、投げつけられるゴミ。彼が解放した土地の人々が背を向けているのがきつい。
それでも将軍は急ぐ。なのに、出国に必要な有効なパスポートがない。ここがすでに迷宮の入口みたいで、前へ進みたいのに「手続き」と「政治」と「体調」が足を引っ張る。同行するのは、ホセ・パラシオスをはじめとした、まだ忠誠を捨てない少数の人々だけ。
マグダレーナ川、進んでるのに戻っていくみたいな航海
ホンダを経て、将軍はマグダレーナ川を下り始める。けどこの旅、距離は進むのに、本人の状態はどんどん後退していく感じがある。輿が必要なくらい衰弱しているのに、使おうとしない自尊心も見えてくる。
プエルト・レアルでの「夜中に女性が歌っていた」という話みたいに、現実と記憶と幻が混ざる瞬間も出てくる。モンポクスでは警察に止められて、将軍だと気づかれない。昔の肩書きだけが一人歩きして、本人は静かに消耗していく。
海へ、亡命へ、でも世界は将軍を待っていない
トゥルバコでは船が見つからず、パスポートも届かない。そこへ政治の知らせが次々に来る。ホアキン・モスケラの正当性、ラファエル・ウルダネタとの争い、復権を支持するデモや暴動。将軍は「夢が実現したまさにその日に崩れ始めた」と回想する。
ようやくパスポートを受け取ってカルタヘナへ向かう頃には、祝賀の声があっても体力が追いつかない。スクレ元帥暗殺の報せは深く刺さり、将軍の旅は「逃げ切る」より「見届ける」色が濃くなっていく。ソレダードで医師の診察を受け入れ、そしてサンタ・マルタで旅は終わる。
この小説のポイント
英雄を英雄のまま置かず、衰弱、記憶、政治のぐらつきの中で描くところ
旅の出来事と回想が絡み合って、人生そのものを迷宮として見せてくる構造
パスポートや船の不在みたいな現実的な障害が、運命の重さとして積み上がる
将軍の周囲にいる少数の人間関係が、最後の時間を立体的にする
たぶんこんな小説
川を下る旅の景色が続きながら、気づくと頭の中では過去が何度も立ち上がってくる感じ。歴史の教科書で固まった像じゃなくて、息づかいとか体温とか、言い訳も後悔も込みで「将軍」が目の前に出てくる。読後に残るのは、勝者の号令というより、長い旅路の熱と疲れの余韻、みたいなやつ。

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