※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
悪い時
著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
一枚のビラから町じゅうが腐っていく話
十月の雨の朝、ラバに跨って外出しようとしたセサル・モンテロは、戸口に貼られた一枚のビラを見つける。その紙切れが示す言葉に導かれるように、彼は行き先を変え、クラリネット吹きパストールの家へ入り、銃を撃つ。そこから町の空気は一気に濁り始める。匿名のビラ、噂、沈黙、そして暴力。「暴力時代」後のコロンビアを覆う不穏さが、日常の隙間からじわじわ滲み出していく。
ざっくり時系列
雨の朝、セサル・モンテロが戸口のビラに気づく
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彼は予定を変え、パストールの家へ向かう
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銃声が響き、町に動揺が走る
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正体不明のビラが町中に貼られ始める
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人々の秘密や噂が表に出てくる
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沈黙と疑心暗鬼が広がる
↓
抑え込まれていた暴力が再び顔を出す
物語の主要人物
・セサル・モンテロ
町に住む男。ビラをきっかけに事件を起こす
・パストール
クラリネット吹き。事件の中心に置かれる人物
・町の人々
ビラと噂に揺さぶられ、沈黙と不安に包まれる存在
雨の朝に始まる、ささやかな異変
物語はとても静かな朝から始まる。雨、ラバ、外出前の一瞬。その日常に貼られた一枚のビラが、すべてを狂わせる。大事件の予兆というより、見過ごせば終わりそうな違和感。でも、その違和感を見てしまったことで、セサル・モンテロの選択は変わり、町の運命もずれていく。
ビラが暴く、町の秘密
ビラは誰が貼ったのか分からない。だが書かれている内容は、人々が心の奥に押し込めてきた事実や噂を正確に突いてくる。表では平穏を装っていた町が、紙切れ一枚でざわつき始め、互いを疑い、沈黙が重くのしかかる。秘密を知られているかもしれないという感覚が、人々を追い詰めていく。
暴力時代の影が戻ってくる
銃声をきっかけに、かつての「暴力時代」の記憶が町に蘇る。直接的な戦いや大事件よりも、腐臭のように漂う恐怖が印象的で、誰もが何かを隠し、何かを恐れている状態が続く。暴力は突然爆発するものではなく、沈黙の底で育っていたことがはっきりしてくる。
この小説のポイント
・些細な出来事から一気に不穏が広がる構成
・匿名性が生む恐怖と疑心暗鬼の描写
・政治や社会の影が、日常の会話や沈黙に滲む
・派手さよりも空気の重さで読ませる語り口
たぶんこんな小説
町全体がゆっくり腐っていく様子を、遠くから見せられている感じ。誰かが叫ぶわけでもなく、説明が過剰に入るわけでもないのに、読んでいる側の息が詰まってくる。ページをめくるほど、静かな不安が積み重なっていくタイプの一冊。

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