※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
市に虎声あらん
著者:フィリップ・K・ディック
ささやかな日常に、正体不明の不安が入り込んでくる話
1950年代のサンフランシスコ。テレビ販売店で働くハドリーは、特別な夢も野心もなく、慎ましく日常を回している。
ところがある出来事をきっかけに、周囲の空気が微妙に変わり始める。誰かが自分を見ている気がする。何かが起きそうな気配だけが、理由もなく膨らんでいく。
世界が壊れたわけでも、明確な事件が起きたわけでもない。それでも、ハドリーの中では確実に「何か」がずれ始めている。
ざっくり時系列
サンフランシスコで平凡な生活を送るハドリーが描かれる
↓
テレビ販売店での仕事と日常が続く
↓
小さな違和感や不安を感じ始める
↓
周囲の人々や街の様子が信用できなくなる
↓
現実そのものが揺らいでいる感覚にとらわれる
↓
不安の正体を掴めないまま、精神的に追い詰められていく
物語の主要人物
・ハドリー
テレビ販売店に勤める男性。平凡な生活を送っていたが、次第に不安に飲み込まれていく。
・ハドリーの周囲の人々
職場や街で関わる存在。日常の一部として、無言の圧力を与える。
壊れていないはずの世界が信用できなくなる
この物語では、明確な異変よりも「感じてしまう違和感」が中心にある。
街はいつも通り、人々も普通に振る舞っている。それでもハドリーは、そこに潜む何かを感じ取ってしまう。その感覚が正しいのかどうか、誰にも確かめられない。
不安は説明できないまま増殖する
虎の声とは、実体が見えないまま周囲を震わせる恐怖の象徴のようなものだ。
何が起きるのかは分からない。ただ、起きると確信してしまう。その確信こそが、ハドリーの精神をじわじわと追い込んでいく。
若きディックの内側が透けて見える語り
派手な展開はほとんどないが、主人公の内面描写は異様に生々しい。
社会に適応しようとする焦り、取り残される恐怖、説明できない被害意識。25歳のディック自身の感覚が、そのまま文章になったような密度がある。
この小説のポイント
・事件よりも心理の揺れが中心
・日常に入り込む理由なき不安
・都市生活の息苦しさ
・自伝的要素の強さ
たぶんこんな小説
何かが起きる前の、最も落ち着かない時間だけを切り取ったような話。
読み終えてもスッキリはしないけど、理由のない不安に心当たりがある人ほど、妙に引っかかる一冊。

コメント