※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
カラマーゾフの兄弟
(Братья Карамазовы)
作品データ
著者:フョードル・ドストエフスキー
ジャンル:哲学小説/神学劇寄りの家族ドラマ
父を憎んだ三兄弟が、父の死で人生ごと裁かれる話
19世紀ロシア。好色で狡猾な父フョードル・パーヴロヴィチと、性格も信念もバラバラな三兄弟ドミトリー、イワン、アリョーシャ。相続とグルーシェンカをめぐって家族はぐちゃぐちゃにこじれ、ついに父が殺される。疑われたのは長男ドミトリー。状況証拠が積み上がり、予備調査から裁判へ突っ走っていく一方で、次男イワンは自分の思想と言葉が誰かを動かした手応えに追い詰められていく。末弟アリョーシャは、スターレッツの教えを胸に、人と人の間に残るものを拾い続ける。
ざっくり時系列
三兄弟が父の町に集まる
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修道院でスターレッツを交えた会談が大荒れする
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父とドミトリーが相続とグルーシェンカで衝突する
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アリョーシャがイリューシャ一家の苦境と少年たちの揉め事に関わる
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イワンが「反逆」「大審問官」を語り、信仰と理性が正面衝突する
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ゾシマ長老が死に、遺体の腐敗が周囲に衝撃を与える
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ドミトリーが金と恋で暴走し、父の家へ駆け込む夜が来る
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フョードル・パーヴロヴィチが殺害され、ドミトリーが逮捕される
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イワンがスメルジャコフと対話を重ね、告白と狂気へ落ちていく
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裁判で決定打のような手紙が出され、ドミトリーは有罪評決
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脱獄計画が語られ、イリューシャの葬儀と「石の上の演説」で締まる
物語の主要人物
・フョードル・パーヴロヴィチ・カラマーゾフ
55歳の父。官能主義者で嘘つき。家族関係の火種そのもの。
・ドミトリー・フョードロヴィチ(ミーチャ)
長男。相続とグルーシェンカで父と激突し、父殺しの容疑者になる。
・イワン・フョードロヴィチ(ワーニャ)
次男。理性派で無神論寄り。「神がいなければ、すべては法則である」を抱え、事件後に崩れていく。
・アレクセイ・フョードロヴィチ(アリョーシャ)
末弟。修道院の修道士。スターレッツの教えを胸に、人の間をつなぐ役回り。
・パーヴェル・フョードロヴィチ・スメルジャコフ
召使い。てんかん持ち。イワンに強く影響され、事件の核心へ入っていく。
・アグラフェナ・アレクサンドロヴナ(グルーシェンカ)
22歳の女性。父とドミトリー双方の欲望と尊敬の的になり、争いの焦点になる。
・カテリーナ・イワーノヴナ(カーチャ)
ドミトリーの婚約者。誇りと葛藤の中心に立ち、裁判でも大きく関わる。
・ゾシマ神父(スターレッツ)
修道院の長老。アリョーシャの師で、教えが物語の背骨になる。
修道院の会談が、家族の地雷を全部踏み抜く
物語の序盤、カラマーゾフ一家は相続争いの仲裁みたいな名目で修道院へ行く。けど父フョードル・パーヴロヴィチの挑発がひどくて、和解どころか憎しみの増幅装置になる。ここで見えるのが、この一家は「話し合い」って形を取るほど破滅に近づくってこと。
同時に、アリョーシャはスターレッツの近くで、人の苦しみの受け止め方を見ていく。息子を亡くした母親を慰める場面とか、言葉の重さが作品全体の空気を決める感じがある。
父殺しの夜へ一直線、恋と金と疑いが絡み合う
中盤からは、父フョードル・パーヴロヴィチ、ドミトリー、グルーシェンカの三角関係がどんどん危険になる。ドミトリーは父の家の近くに隠れて様子をうかがい、ついには押し入って暴力沙汰、戻ってきて殺すと脅す。
一方で、イワンはアリョーシャに「反逆」や「大審問官」の話をぶつける。子どもの苦しみを根拠に神の世界を拒む理屈、自由意志という重荷、パンと鎖で人は幸福になるのか、みたいな問いが、事件の空気と変にリンクしていくんだよね。
そしてゾシマ長老の死。遺体がすぐ腐敗して、周囲の信仰や尊敬が揺れる。アリョーシャも一度は打ちのめされるけど、グルーシェンカとの面会で逆に希望を拾い直していく。ここ、地味にでかい転換点。
逮捕、告白、裁判、そして有罪評決までの暴走列車
父が殺害されると、疑いはドミトリーへ集中する。理由は単純で強い。直前まで困窮してたのに、直後に大金を持っている目撃がある。父が隠していたグルーシェンカのための3000ルーブルも消えている。ドミトリーは「カテリーナが妹に送るよう渡した3000ルーブルの残り」だと説明するけど、捜査官は納得しない。
家にいた可能性が高いのはグリゴリー夫妻とスメルジャコフ。スメルジャコフは発作で意識不明だったとされる。状況証拠が積み上がり、ドミトリーは起訴されて裁判へ。
その裏でイワンはスメルジャコフと三度会って追い詰めていく。最後にスメルジャコフは、自分が父を殺し金を盗んだこと、そしてイワンの言葉や態度がそれを後押ししたと告白する。イワンは幻覚の悪魔に責め立てられ、裁判でも支離滅裂になって崩れる。裁判ではカテリーナがドミトリーの手紙を提示し、流れは決定的になっていき、評決は有罪で終わる。
この小説のポイント
・父殺しを軸に、信仰と疑念、理性と情熱が同時進行でぶつかる
・「神がいなければ、すべては許される」みたいな言葉が、思想だけじゃなく現実の行動に刺さってくる
・アリョーシャとスターレッツの線が、家族の泥試合の中で別の光を出してくる
・裁判劇が、正しさと感情と世間の空気を丸ごと巻き込む形で描かれる
・少年たち(イリューシャとコーリャ)の物語が、終盤の着地に効いてくる
たぶんこんな小説
家族の揉め事、恋と金、信仰と理性、罪悪感と救いが、同じ鍋でぐつぐつ煮えてる感じ。大事件が起きてからも、派手な答えで片づけるというより、人の心の中で何が折れて何が残るのかを、しつこいくらい近距離で見せてくる雰囲気がある。ラストは、少年たちの記憶と約束に焦点が移って、重いのに変に静かな余韻が残る。

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