※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
罪と罰
(Преступление и наказание)
作品データ
著者:フョードル・ドストエフスキー
ジャンル:心理小説/社会小説
天才気取りの青年が、一線を越えて自分で自分を追い詰める話
貧しい元法学生ラスコーリニコフは、サンクトペテルブルクの狭い部屋で極貧暮らし。
彼は「非凡な人間なら、高尚な目的のために障害を取り除く犯罪も正当化できる」と自分に言い聞かせ、悪徳質屋の老婆を狙う。
ところが実行した瞬間から、頭の中は混乱と恐怖と嫌悪でぐちゃぐちゃ。外の捜査の圧も、内側の罪悪感も、どっちも逃げ道を塞いでいく。そこにソーニャ、家族、友人、捜査官、そして危険な男たちが絡み、ラスコーリニコフは“考え”だけで生きてた代償を、現実で払うことになる。
ざっくり時系列
質屋の老婆を殺して金を得る計画に取り憑かれる
↓
居酒屋でマルメラードフと出会い、娘ソーニャの話を聞く
↓
母からの手紙で、妹ドゥーニャがルージンとの結婚を決めたと知り激怒
↓
緊張のまま斧を盗み、質屋の部屋で老婆を殺害
↓
偶然来た妹リザヴェータも殺してしまい、盗品はほとんど取れず動揺
↓
発熱と錯乱、警察署で気絶、盗品を隠す
↓
友人ラズミヒンに看病され、家族(母とドゥーニャ)も上京
↓
捜査官ポルフィーリイと対面し、論文「犯罪について」をめぐって心理戦が始まる
↓
ソーニャと深く関わり、福音書の朗読などを通じて彼女の信仰と向き合う
↓
ルージンがソーニャに濡れ衣を着せようとするが暴かれる
↓
ラスコーリニコフはソーニャに自分の犯行を告白
↓
スヴィドリガイロフが告白を盗み聞きしていたことが判明し、事態がさらに動く
↓
最終的に警察署で自白し、流刑へ
↓
獄中で時間が流れ、ソーニャの存在の中で“再生の入口”に立つ
物語の主要人物
・ロジオン・ロマノヴィチ・ラスコーリニコフ
貧しい元法学生。理屈で自分を鼓舞し、殺人に踏み切る
・ソーニャ(ソフィア・セミョーノヴナ・マルメラードヴァ)
家族のために身を削って生きる娘。ラスコーリニコフの告白相手になる
・ドゥーニャ(アヴドーチャ・ロマノヴナ・ラスコーリニコワ)
ラスコーリニコフの妹。家族のために結婚を決める
・ラズミヒン(ドミトリー・プロコフィイチ)
ラスコーリニコフの友人。看病し、家族も支える
・ポルフィーリイ・ペトローヴィチ
捜査官。挑発と観察でラスコーリニコフを追い込む
・ルージン(ピョートル・ペトローヴィチ)
ドゥーニャの婚約者。周囲を操作して優位に立とうとする
・スヴィドリガイロフ(アルカジー・イワノヴィチ)
ドゥーニャに関わる危険な男。盗み聞きで切り札を握る
・マルメラードフ(セミョン・ザハロヴィチ)
酔いどれの父。家族の崩れを語り、物語を動かす
・リザヴェータ
質屋の妹。事件のきっかけの一つとして大きく残る
蒸し暑い街と、追い詰められた頭の中から始まる
舞台のサンクトペテルブルクは、息が詰まるような貧困と雑踏がずっとまとわりつく。
ラスコーリニコフは外に出ても落ち着けず、部屋に戻っても休めない。妹の結婚の話が追い打ちになって、「正義のための一線越え」みたいな理屈に火をつけてしまう。
この序盤の空気は、読む側も一緒に息が浅くなる感じで、彼の思考が暴走していく速度がめちゃくちゃリアル。
理屈で押し切ったはずが、手が震えて全部ぐらつく
計画はある。理屈もある。なのに現場は思い通りに動かない。
殺害後、彼は必要なだけ盗めず、隠し方も雑になり、熱に倒れていく。警察署で気絶したり、盗品を岩の下に埋めたり、行動が全部“自分で自分を疑ってる人”の動きになっていく。
ここからは、外の捜査というより、本人の内側が最大の敵になっていく感じ。
捜査官の会話が、刃物みたいに刺さってくる
ポルフィーリイとのやり取りがすごい。
彼は真正面から断定せず、論文「犯罪について」を持ち出して、ラスコーリニコフの理屈そのものを撫でるように触ってくる。
ラスコーリニコフは弁明できるのに、相手の“分かってる空気”に神経が削られていく。挑発に乗った瞬間、言葉は武器じゃなくて足枷になる。心理戦で消耗していくのが、読んでてきついのに止まらない。
この小説のポイント
「非凡」という自己イメージが、現実の弱さとぶつかって崩れる過程
貧困、家族、体調、街の空気がぜんぶ重なって判断力を削っていく感じ
ポルフィーリイの心理戦と、ソーニャの静かな支えが対照的
“裁き”よりも、本人の内部で起きる崩壊と向き合いが中心にあるところ
たぶんこんな小説
暗い部屋で一人で考え続けた末に、頭の中の理屈が現実に負けていく話なんだけど、ただ沈むだけじゃなくて、人との関わりがちゃんと刺さってくる。
読後は「事件」の印象より、ラスコーリニコフの言い訳と恐怖と、ソーニャの静かな強さがずっと残るタイプ。

コメント