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ダールグレン(1)
著者:サミュエル・R・ディレイニー
名前を失った青年が終わらない街を彷徨い続ける話
気づくと青年は、崩壊した都市ベローナに立っている。自分の名前も、なぜここに来たのかも思い出せない。街には二つの月が浮かび、夜と霧が終わらず、新聞の日付は毎日めちゃくちゃに変わる。人々は逃げ去り、残った者たちは奇妙な共同体を作って生きている。やがて<キッド>と呼ばれるようになった青年は、街をさまよい、愛し合い、暴力に触れ、詩を書きながら、この理解不能な都市の内部へと深く沈み込んでいく。
ざっくり時系列
原因不明の異変で都市ベローナが崩壊する
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多くの住民が街から逃げ出す
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記憶を失った青年が街に現れる
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青年は<キッド>と呼ばれるようになる
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廃墟に残った人々と関係を結ぶ
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街を彷徨いながら詩を書き始める
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都市と自己の輪郭が曖昧になっていく
物語の主要人物
・キッド
名前も過去も思い出せない青年。詩を書きながら都市を彷徨う
・ベローナに残った人々
廃墟の街で独自の共同体を作り生き延びている集団
・武装集団
街を跋扈する暴力的な勢力
何が起きたのか分からない街に放り込まれる
物語は説明から始まらない。なぜ街が壊れたのか、なぜ二つの月があるのか、なぜ時間が狂っているのか、その答えは示されない。読者と同じように、キッドも分からないまま街を歩くことになる。世界のルールが壊れた場所で、彼は状況を理解するより先に、身体と感覚で都市を受け止めていく。
さまようこと自体が生き方になる
キッドは定住しない。人と出会い、別れ、愛し合い、争い、また歩き出す。詩を書くことだけが、彼が自分をつなぎ止めるための行為になっていく。都市ベローナは迷宮のように姿を変え続け、キッドの内面と外界の境目も、次第に区別がつかなくなっていく。
都市と人間が溶け合う場所
物語が進むほど、ベローナという街は単なる舞台ではなく、意識そのもののように描かれていく。性、暴力、言葉、記憶が混ざり合い、はっきりした結論やゴールは見えない。キッドが辿り着くのは答えではなく、問いが増殖していく感覚だ。
この小説のポイント
崩壊都市SFの形を取りながら、物語は時間、言語、アイデンティティそのものを揺さぶってくる。筋を追うよりも、文章のうねりや構造の歪みを体感する小説。都市の異常さと主人公の内面が完全に重なって描かれている。
たぶんこんな小説
物語を読むというより、巨大で奇妙な都市に迷い込んで出てこられなくなる感覚の小説。理解できたと思った瞬間に足元が崩れ、また別の景色が現れる。読み終えても、まだ街の中に立っているような、不思議な余韻が残る一冊。

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