※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
ゼルプの裁き
著者:ベルンハルト・シュリンク/ヴァルター・ポップ
元ナチ検事が、過去と現在の罪を同時に掘り起こしてしまう話
戦前はナチ政権下の検事だったゼルプは、戦後に法曹界へ戻る道を自ら拒み、私立探偵として生きている。ある日、義兄にあたる大企業経営者から依頼されたのは、社内コンピューターへのハッキング事件の調査。しかしその追及は、戦時中の人間関係と、見て見ぬふりをされてきた過去の責任へとつながっていく。
ざっくり時系列
ゼルプが戦前に検事として働く
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1945年、キャリアを失い法曹界から離れる
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私立探偵として生きる道を選ぶ
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義兄コルテンからハッキング事件の調査を依頼される
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犯人を突き止める
↓
事件の背後に戦時中の重大な事実が浮かび上がる
物語の主要人物
・ゼルプ
元ナチ検事。戦後は私立探偵として生きている
・コルテン
ゼルプの亡き妻の兄。成功した大企業の経営者
・ハッカー
事件の表向きの加害者。過去と現在をつなぐ存在
戦後に「戻らなかった」男
ゼルプは、戦後に多くの元同僚が何事もなかったように法曹界へ戻る中で、その道を選ばなかった。彼の人生には、罪悪感と自尊心が入り混じった、割り切れない感情が常に影を落としている。その姿勢が、探偵としての視点にも強く影響している。
現代的な事件が、過去を呼び覚ます
依頼内容は一見すると現代的な企業犯罪だが、調査を進めるうちに、ゼルプ自身とコルテンが戦時中に関わった出来事が浮かび上がってくる。ハッキングという入口は、過去に封じられていた責任の問題へと自然につながっていく。
正義は誰が裁くのか
ゼルプは元検事であり、今は探偵という立場にいる。その二重性の中で、彼は法による裁きと、個人としての判断の間で揺れる。真実を明らかにすることが、本当に正義なのかどうか。その問いが、事件の核心として残される。
この小説のポイント
ミステリの形を取りながら、戦争責任や戦後社会の記憶の風化を真正面から扱っている点が大きな特徴。犯人探し以上に、「過去とどう向き合うか」が物語の中心に置かれている。
たぶんこんな小説
静かで重く、読み進めるほどに考えさせられる一冊。派手な展開よりも、人物の選択や沈黙が強く印象に残る。読後に「裁かれるべきものは何だったのか」が、じわじわ効いてくる空気をまとっている。

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