※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
ステパンチコヴォ村とその住人
(Село Степанчиково и его обитатели)
作品データ
著者:フョードル・ドストエフスキー
ジャンル:長編小説/喜劇・風刺小説
ただの居候のはずの男が、村と屋敷を精神的に支配していく話
サンクトペテルブルクから田舎の屋敷に呼び出された青年セルゲイは、そこで奇妙な権力構造を目にする。中心にいるのは、何の肩書きもない中年男フォマ・フォミチ。道徳を振りかざし、被害者ぶりながら怒り、周囲の貴族や使用人を巧みに操っている。屋敷の主人ロスタネフ大佐の恋や結婚話まで巻き込み、村全体がフォマの機嫌ひとつで振り回されていく。
ざっくり時系列
セルゲイが叔父ロスタネフ大佐の屋敷に呼ばれる
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フォマ・フォミチが屋敷で絶大な影響力を持っていると知る
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ロスタネフが家庭教師ナステンカとの結婚を考える
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フォマは結婚に反対し、裕福な別の縁談を推す
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タチアナをめぐる駆け落ち騒動が起こる
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タチアナは自ら屋敷に戻ってくる
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ロスタネフとナステンカの密会が発覚する
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激怒したフォマが屋敷を去ろうとして失敗する
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住人たちがフォマを引き留める
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フォマが態度を変え、結婚を祝福して騒動が収束する
物語の主要人物
・フォマ・フォミチ・オピスキン
道徳家を装う中年男。屋敷の人々を精神的に支配している。
・セルゲイ・アレクサンドロヴィチ
語り手。ロスタネフ大佐の甥で、状況を外側から観察する。
・エゴール・イリイチ・ロスタネフ
退役大佐。善良だが気が弱く、フォマに振り回される。
・ナスターシャ・エヴグラーフォヴナ
家庭教師。ロスタネフが想いを寄せる相手。
・イワン・イワニチ・ミジンチコフ
ロスタネフの親族。恋愛沙汰の騒動に関わる。
・タチアナ・イワノヴナ
裕福な女性。結婚話と駆け落ち騒動の中心人物。
屋敷に君臨する「正しい人」から始まる
ステパンチコヴォ村の屋敷では、フォマの言葉が絶対になっている。彼は怒り、説教し、傷ついたふりをしては、周囲に罪悪感を植え付ける。フランス語教育や踊りへの激怒など、細かいことで権威を誇示し、誰も逆らえなくなっている空気が最初から異様。
恋と結婚まで支配しようとする
ロスタネフ大佐の結婚話さえ、フォマの価値観が口出しする対象になる。誰と結婚すべきか、誰がふさわしいかを「道徳」の名で決めようとし、屋敷の人間関係はどんどんこじれていく。恋愛沙汰が喜劇的に絡まり、状況は混乱していく。
大騒動の末に訪れる奇妙な和解
密会が発覚し、フォマは怒って去ろうとするが、あっさり失敗する。ところが住人たちは彼を責めるどころか必死に引き留める。最終的にフォマは態度を変え、結婚を祝福し、すべては丸く収まった形になる。その収まり方自体が、この物語の皮肉になっている。
この小説のポイント
外見は喜劇なのに、中身はかなり鋭い権力風刺。肩書きも力もない人間が、「正しさ」と「被害者意識」だけで集団を支配する構図が描かれる。フォマは単なる悪役ではなく、周囲が彼を必要としてしまう構造ごと描かれているのが特徴。
たぶんこんな小説
読んでると笑えるのに、気づくと背中が寒くなる。声が大きくて道徳的な人が一番怖い、って感覚がじわじわ残る。ドストエフスキーの中では珍しく明るいのに、後味はかなり現代的な一冊。

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