※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
地下室の手記
(Записки из подполья)
作品データ
著者:フョードル・ドストエフスキー
ジャンル:哲学小説/心理小説
世界を理解しすぎた男が、わざと人生を拗らせる話
舞台はサンクトペテルブルク。
語り手は、退職して地下室に引きこもる元官吏の男。
彼は理性も理屈もよく分かっているのに、それに従うことを全力で拒否する。
幸せになれる道が見えているからこそ、あえて遠回りし、苦しみ、失敗する。
この物語は、自由意志を守るために自分自身を破壊していく、かなりめんどくさい告白。
ざっくり時系列
地下室に住む男が、自分の性格と思想を独白する
↓
理性・幸福・合理性への激しい反発を語る
↓
過去の出来事を回想し始める
↓
警官への執着から、無意味な復讐を試みる
↓
旧友たちの送別会に乱入し、激しく自滅する
↓
売春宿で若い娼婦リザと出会う
↓
リザに希望と絶望を同時に叩きつける
↓
自分の部屋に来たリザを侮辱し、突き放す
↓
彼女を失い、再び地下へと引きこもる
物語の主要人物
・地下室の男
語り手。退職した元官吏。理性を理解しつつ、それに逆らい続ける。
・リザ
売春宿で出会う若い女性。地下室の男の言葉に心を揺さぶられる。
・ズヴェルコフ
地下室の男の旧友。社交的で成功している存在。
・シモノフ
旧友グループの一人。送別会の場に関わる。
理性が正しいと分かっているからこそ、従いたくない
第一部では、地下室の男が読者に直接語りかけながら、理性と幸福への嫌悪を吐き出す。
人間は合理的に生きれば幸せになれる、そんな話は全部ウソだと言い切る。
痛みや苦しみこそが、人間が自由である証拠で、2×2=4に従う人生なんて牢屋みたいなもの。
だから彼は、わざと不幸になる選択をする。
行動しても、結局うまくやれない過去
第二部では、地下室の男の若い頃の出来事が語られる。
警官に無視されたことに執着し、借金までして復讐の舞台を整えるが、相手は気づきもしない。
旧友たちとの送別会では、場の空気を壊し、怒りと劣等感を爆発させて孤立する。
彼は社会に反抗しているつもりなのに、結果的に一番傷つくのは自分自身。
リザとの出会いが突きつける、救いと破壊
売春宿で出会ったリザに、地下室の男は未来の絶望を語る。
最初は冷静に聞いていた彼女も、やがて自分の行き詰まりを自覚し、彼に惹かれていく。
だが彼は、誰かに救われることにも耐えられない。
自分の部屋に来たリザを徹底的に侮辱し、金で突き放し、すべてを壊す。
この小説のポイント
・人間は必ずしも幸福や合理性を選ばない、という強烈な主張
・独白なのに、常に誰かと口論しているような語り
・自由意志を守るために、あえて自滅するという逆説
・後のドストエフスキー作品につながる思想の原点
たぶんこんな小説
読んでて共感するとちょっと危ないし、嫌悪してもどこか刺さる。
主人公は何も成し遂げないのに、人間の弱さだけは異様にリアル。
気持ちよく読める話じゃないけど、「自分にも少し分かる」と思った瞬間に、逃げ場がなくなるタイプの一冊。

コメント