※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
嵐が丘
(Wuthering Heights)
著者:エミリー・ブロンテ
嵐みたいな愛に巻き込まれた孤児が、荒野ごと人生をぶっ壊しにいく話
1801年、田舎で静かに暮らしたい青年ロックウッドが借りた屋敷の近所には、風が吹き荒れる屋敷「嵐が丘」と、険しい男ヒースクリフがいた。泊まった夜に“キャシー”の幽霊みたいなものを見て、ロックウッドは家政婦ネリーから、嵐が丘と鶫の辻の二つの家に絡みつく愛憎と復讐の昔話を聞くことになる。孤児ヒースクリフと娘キャサリンの結びつき、すれ違い、そこから始まる復讐が二世代目まで波及して、最後に残った若い二人がようやく未来を取り戻す、みたいな流れ。
ざっくり時系列
ロックウッドが鶫の辻を借りる
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大家のヒースクリフが住む嵐が丘に挨拶に行く
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嵐が丘でキャシーの幽霊みたいなものを目撃する
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家政婦ネリーが昔話を語り始める
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アーンショウ家が孤児ヒースクリフを連れ帰る
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ヒンドリーがヒースクリフを虐待し、身分を落とす
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キャサリンとヒースクリフが荒野で強く結びつく
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キャサリンが鶫の辻で淑女として扱われ、距離が生まれる
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キャサリンがエドガーの求婚を受け、ヒースクリフが飛び出す
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3年後、ヒースクリフが裕福な紳士として戻り復讐を開始
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イザベラがヒースクリフと駆け落ちして地獄を見る
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キャサリンが衰弱し、娘キャシーを産んで亡くなる
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ヒースクリフが嵐が丘を手に入れ、ヘアトンを下働きに落とす
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イザベラが逃げて、息子リントンを産む
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時が流れ、キャシーとリントンが引き合わされる
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ヒースクリフがキャシーを監禁して結婚を強要する
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エドガーが亡くなり、キャシーは嵐が丘へ連れ戻される
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リントンが亡くなる
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キャシーがヘアトンに文字を教え、二人が近づく
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ヒースクリフが生きる気力を失い死ぬ
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ロックウッドが戻り、二人の若者の穏やかな姿を見る
物語の主要人物
・ヒースクリフ
身元不明の孤児。嵐が丘に拾われ、差別と虐待の中で育ち、のちに復讐に取り憑かれる
・キャサリン・アーンショウ
嵐が丘の娘。ヒースクリフと強く結びつくが、結婚と身分の現実に揺れる
・エドガー・リントン
鶫の辻の息子。キャサリンと結婚し、ヒースクリフの復讐に巻き込まれる
・イザベラ・リントン
エドガーの妹。ヒースクリフに惹かれて結婚し、過酷な扱いを受けて逃げる
・ヒンドリー・アーンショウ
キャサリンの兄。ヒースクリフを憎み、虐待し、家を荒廃させる
・キャサリン・リントン(キャシー)
キャサリンとエドガーの娘。鶫の辻で育ち、後に嵐が丘の因縁に巻き込まれる
・リントン・ヒースクリフ
ヒースクリフとイザベラの息子。病弱で父に利用され、キャシーとの結婚を強いられる
・ヘアトン・アーンショウ
ヒンドリーの息子。本来の跡取りだが、ヒースクリフに下働きに落とされる
・エレン・ディーン(ネリー)
家政婦。過去の出来事をロックウッドに語る語り手の中心
・ロックウッド
都会疲れの青年。鶫の辻を借りたことから、物語の聞き手になる
風がうなる屋敷で幽霊に呼ばれた男が、地獄みたいな昔話の扉を開く
都会の暮らしに疲れたロックウッドは、田舎の屋敷「鶫の辻」を借りて移り住む。近所の「嵐が丘」に挨拶へ行くと、そこには不機嫌で近寄りがたいヒースクリフがいて、家の中の空気も住人の関係も、見てるだけで胃が痛くなるくらい冷え切っている。
吹雪の夜、ロックウッドは嵐が丘で一夜を過ごすことになり、部屋でキャサリン・アーンショウの日記を見つけて読みふける。うとうとしたところに、窓を叩く少女の影が現れて「ヒースクリフ、私よ、キャシーよ」と呼びかける。叫ぶロックウッド、飛び込んでくるヒースクリフ、そして窓にすがって泣き崩れる男。ここでロックウッドは確信する。この屋敷、ただごとじゃない。
翌日、鶫の辻に戻ったロックウッドは家政婦ネリーに事情を尋ね、嵐が丘と鶫の辻の二つの屋敷に絡む、長くて苦い因縁を聞き始める。
孤児ヒースクリフとキャサリンの結びつきが、愛にも復讐にも変質していく
昔、嵐が丘の主アーンショウが、リヴァプールから身寄りのない少年を連れ帰る。少年はヒースクリフと名付けられ、愛されるが、周囲からは得体の知れない存在として疎まれる。特に兄ヒンドリーは父の愛情を奪われたと思い、暴力でヒースクリフを支配しようとする。
一方、妹キャサリンはヒースクリフと荒野を駆け回り、やがて二人は互いを“片割れ”みたいに感じるほど強く結びついていく。けど、アーンショウが亡くなってヒンドリーが主人になると、ヒースクリフは下働きに落とされる。キャサリンはそれでも彼とつるみ続けるが、鶫の辻で手当てを受け、淑女として扱われ、教育と身分の空気に染まっていく。
そして決定的なのが、キャサリンがエドガーの求婚を受ける場面。キャサリンはネリーに「ヒースクリフを捨てる気はない」と言いつつも、結婚の現実としてはエドガーを選ぶ。その会話を途中まで聞いたヒースクリフは、キャサリンが自分との結婚を否定したと受け取り、姿を消す。キャサリンは錯乱して倒れ、回復後にエドガーと結婚して鶫の辻へ移る。
3年後、ヒースクリフは裕福な紳士になって戻ってくる。でも目的は平穏じゃない。自分を踏みにじったヒンドリー、キャサリンを奪ったエドガー、そして自分を捨てたと感じたキャサリンへ、復讐を叩き込むためだった。
イザベラを誘惑して結婚し、鶫の辻を揺さぶり、キャサリンは衰弱していく。最後にヒースクリフと密会し、ようやく寄り添えたかと思った矢先、キャサリンは娘キャシーを産んで亡くなる。ここから復讐は次の世代へずるずる引きずられていく。
仕上げの復讐が次世代を縛るのに、最後は若い二人が静かに鎖をほどいていく
ヒースクリフは賭博でヒンドリーを追い詰め、嵐が丘を手に入れて主人になる。そしてヒンドリーの息子ヘアトンを、かつて自分がされたみたいに下働きに落とし、教育も奪う。
一方、鶫の辻ではキャシーが大切に育てられる。イザベラが亡くなると、彼女の息子リントンがエドガーに引き取られるが、ヒースクリフはその息子を使って、鶫の辻の財産を狙う。リントンとキャシーを結婚させれば、鶫の辻を手に入れられるから。
ヒースクリフは策を弄してキャシーを誘導し、ついには監禁して結婚を了承させる。キャシーは父エドガーの死に目に間に合い、葬儀を終えるが、鶫の辻はヒースクリフの手の中に落ちていく。やがてリントンは亡くなり、キャシーは嵐が丘で孤立する。
でも、ここで少しずつ空気が変わっていく。ヘアトンは読み書きができないことで笑われてきたが、キャシーに認められたくて必死に学ぼうとする。キャシーも彼のひたむきさに心を動かされ、文字を教え始める。二人はゆっくり仲を深めていく。
その姿は、ヒースクリフにとって最悪の刺さり方をする。キャサリンに似た面影を持つ二人が、憎しみじゃなく親しさでつながっていくのを見せつけられるから。復讐の熱が冷め、キャサリンへの執着だけが残り、ヒースクリフは食事も取らなくなって衰えていく。大雨の日、ネリーが彼の死体を見つける。
最後にロックウッドが再訪すると、キャシーとヘアトンは恋人同士になっていて、嵐が丘の空気は以前とは別物になっている。ロックウッドは三人の墓を眺め、静かな余韻の中で物語は終わる。
この小説のポイント
舞台の荒野と屋敷が、人の感情そのままみたいに荒い
孤児として拾われたヒースクリフの屈辱が、愛と復讐を歪ませていく
キャサリンの選択が、恋愛だけじゃなく身分や暮らしの現実に引き裂かれている
復讐が一世代で終わらず、次世代の生活と教育まで壊していく
最後に若い二人が、憎しみじゃない形で関係を作り直していく
たぶんこんな小説
風がビュービュー吹く荒野で、好きって感情が「優しさ」じゃなくて「呪い」みたいに育っていく感じ。登場人物みんな、誰かのことを思ってるのに、その思い方が不器用すぎて刺さり方がえぐい。読んでると、恋とか復讐とか家とか、そういう単語がぜんぶ重たくなるんだけど、最後にほんの少しだけ、空気がほどける瞬間がある。そこがまた、妙に静かでいいんだよね。

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