※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未読の方はご注意ください。
夜と霧
(Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager)
著者:ヴィクトール・フランクル
人間が極限に放り込まれても意味を探し続ける話
ナチスの強制収容所に収容された心理学者フランクルが、そこで見た人間の心の動きと、生き延びた人たちに共通していた「人生の目的」の存在を描いた一冊。
極限状態でも、人は課題に向き合うこと、誰かを思うこと、尊厳を保つことによって生きる意味を見出せる、という実感が全体を貫いている。
ざっくり時系列
平穏な生活から一転、強制収容所へ送られる
↓
収容初期のショック状態に陥る
↓
過酷な日常に慣れ、感情が鈍くなる
↓
仲間や未来を思うことで精神を保つ人が現れる
↓
解放を迎え、自由を前にしても心が追いつかない
↓
苦悩と幻滅を経て、ようやく社会へ戻っていく
物語の主要人物
・ヴィクトール・フランクル
心理学者。強制収容所の囚人として体験を記録し、後に理論化する
・強制収容所の囚人たち
生存のために日々を送り、それぞれの方法で未来を思い描く人々
・看守やカポ
囚人を管理する立場にいる者たち。善悪は立場とは一致しない
希望を奪われる場所に放り込まれる
物語は、強制収容所という人間性を徹底的に削る場所での日常から始まる。
到着直後の囚人たちは強いショック状態に陥り、自分に何が起きているのか理解できないまま、選択の余地がない生活に投げ込まれる。名前も尊厳も奪われ、ただ生き延びることだけが目標になる。
無関心の中で見えてきた違い
やがて囚人たちは過酷な環境に適応し、感情を抑え込む無関心な状態に入っていく。
そんな中でも、生き残る人たちには共通点があった。未来にやるべきことを思い描き、愛する人との再会を想像し、自分なりの目的に心をつなぎ止めていたことだ。
環境がすべてを決めるのではなく、どう意味づけるかが生死を分けていたとフランクルは気づく。
解放後に訪れるもう一つの試練
解放は終わりではなかった。
自由を前にしても感情が動かず、世界が現実に感じられない離人症の状態が続く。身体が回復してようやく心が動き出すが、次に待っているのは怒りや歪み、そして深い幻滅だった。
苦しみが終わると思っていたのに、幸福は自動的には訪れない。その現実に直面する過程が描かれていく。
この小説のポイント
・極限状態でも人は選択する自由を失わない
・人生の意味は苦しみの外ではなく、その最中にも存在する
・善悪は立場では決まらず、人間一人ひとりの態度に現れる
・心理学の理論が、実体験から言葉として立ち上がってくる
たぶんこんな小説
体験記であり、心理学の本でもあり、静かな人間観察の記録。
重たい題材なのに、読み進めると不思議と「人はどこまで耐えられるのか」より「人は何を信じて生きるのか」に意識が向いてくる。
淡々とした語り口の中に、人間へのまなざしがずっと残る一冊。

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